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Kunz et al. (2019)

1月 25, 2019

Kunz, S., Joseph, S., Geyh, S., & Peter, C. (2019). Perceived posttraumatic growth and depreciation after spinal cord injury: Actual or illusory? Health Psychology, 38, 53-62. doi: 10.1037/hea0000676

2019年がはじまってあと少しで一か月になる.外の気温はマイナス12度.一昨日はマイナス20度まで下がった.それでもラボのメンバーは朝イチで大学に来る.あと一カ月くらいで去年からやってきた研究の一つが終わりそうなので,それをこの次どう発展させるか,研究デザインを決めようとしているからだ.はじまってしまうとまたしばらく変更できないので,今が大事だ.で,その内容は「本物のPTG」と「幻想のPTG」をどう見極めるか,あるいは一般の人はその違いをどうとらえているのか,ということに関係する.PTG研究を長くやってきているイギリスのノッティンガム大学のDr. Stephen Josephがスイスの研究者と共同研究してこのテーマで論文を発表したのでそれをレビューする.

  • 問題と目的:何らかの理由により脊椎を損傷した人に,PTGという現象が少なからずみられることが明らかにされている.PTGを測定するためによく用いられている方法が,ある一時点からの振り返りによる質問紙法だ.「脊椎を損傷したことをきっかけとして,どう変わったか」をPTGI(心的外傷後成長尺度)によって測定した場合の得点を,Frazierらの研究にならって,「認知されたPTG」と呼ぶ.一方,縦断調査により二時点で回答を得てその差をみたものを「実際の変化」と呼ぶ.先行研究は両者の間に高い相関がみられないばかりでなく,「認知されたPTG」が精神的健康にとってプラスの効果を持たないことから,振り返りによるPTGは幻想にすぎず,現実を直視しない防衛機制,回避ではないかと議論されている.しかし,このテーマによる研究の多くが大学生をサンプルとしており,信念が揺さぶられるようなトラウマを経験している人が比較的少ないので,本研究では脊椎損傷者を対象に縦断調査を行い,この点明らかにしたい.また,PTGの自己報告のみを見ている研究が多いが,ポジティブな方向の変化しか測定できないという問題があるので,PTD(Post-traumatic Depreciation),つまり逆向き,ネガティブな方向の変化も測定することで,両者が精神的健康に及ぼす影響について総合的に検討することを本研究の目的とする.
  • 方法:スイス在住で,脊椎損傷と新たに診断を受け研究に同意した371名のうち,診断から一か月後の最初の調査と,退院時の調査の両方に協力した206名を分析対象とする.診断から一か月後の最初の調査では,自己効力感と人生の目標(生きがい)に関する尺度に回答を求めた.退院時の調査では,この両者に加えて,PTGとPTD,そして適応に関係する精神健康の尺度(抑うつ,不安,人生の満足度)に回答を求めた.データの分析はRを使い,潜在差得点のモデルを検討した.
  • 結果:自己効力感に関して,全体での平均には二時点で差異がなかったが,個人内での変化に関しては有意な個人差があった.生きがいは全体で見た時低下していたが,こちらも個人内での変化に有意な個人差があった.そしてこれらの変化得点はPTGともPTDとも相関していなかった.次に,4つの予測子(自己効力感の二時点での変化,生きがいの二時点での変化,PTG,PTD)が,3つの精神的健康指標(抑うつ,不安,満足度)にどう影響を及ぼしているか検討した結果,若干の例外はあるものの,全体として,自己効力感の変化,生きがいの変化,そしてPTGの三つが独立して,精神的健康指標にプラスの影響を及ぼしており,PTGはマイナスの影響を及ぼしていた.
  • 考察:以上より,出来事から一定期間経過した後に振り返って報告されるPTGは幻想である可能性が否定できないものの,その報告も,実際の変化とは別に,精神的健康にとって重要な役割を果たしていることが明らかにされた.ただし,本研究の問題点として,「実際の変化」を見ているとは言いつつ,トラウマから一カ月が経過した時点で最初の調査を行っているため,トラウマ前後の「実際の変化」を測定できていない点には注意が必要である.

この研究でもみられるように,「本物のPTG」を縦断研究による二時点での差で見て,「実際にどれだけ変わったか」という得点の変化で定義し,ある一時点による振り返りのPTGが,この差と強く相関しなかった場合において,その振り返りのPTGが「幻想のPTG」だというとらえ方が,今のPTG研究の主流だ.

けれども私たちの研究グループでは,二時点での差に等価するようなPTGは存在しえないと考えている.つまり,ここに挙げた研究では,PTGを本当に経験しているのであれば,自己効力感は高まっているはずであり,生きがいも高まっているはずだと想定して,議論を展開しているが,私たちはその前提がおかしいと考えている.つらい体験をきっかけに人として成長したという実感がある人の中に,自己効力感が高まったり生きがいが高まった人もいるのは確かだろうがそれは一部であり,自己効力感が高まっていない,生きがいや人生の意味が見つかっていないからと言って成長を遂げていないということにはならないはずだ.

なので,私たちが定義している「本物のPTG」とは,PTG理論モデルでこれまでに示してきたようなプロセス(信じてきた価値観が揺さぶられ,認知的熟考が活性化され,開示や自己表現がなされるという一連のもがきのプロセス)を伴った場合の成長であり,「幻想のPTG」は,このプロセスがない場合の成長だと定義し,研究を行っている.

そして,それぞれの研究者が操作的に定義して自由に研究すれば良いのではないかとは考えず,前者のような定義をすることには臨床的に見て問題があるのではないかということも追究している.そしてこういう問題はPTGだけに限らないので,他のテーマにも広げて研究を進めている.

以上.

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