Götz et al. (2021)
Götz, F. M., Gvirtz, A., Galinsky, A. D., & Jachimowicz, J. M. (2021). How personality and policy predict pandemic behavior: Understanding sheltering-in-place in 55 countries at the onset of COVID-19. American Psychologist, 76, 39-49. doi: 10.1037/amp0000740
ちょうど去年の今頃,ここミシガンでも新型コロナに関する報道が増えていて,3月にイスラエルで開かれるはずだった学会で講演をすることが決まっていたので,キャンセルになったらショックだなと悩んでいたのを思い出す.あれから早一年.今なら学会をオンラインでやるという選択肢があるけれど,当時は直前だったこともあり,結局,学会自体,取りやめになった.私の授業もラボも3月16日からすべてオンラインになった.ただ時差さえ気を付ければ,勉強会がどの国で開かれていようとも簡単に参加できるようになり,これまでメールだけだった研究者ともZoomやGoogle Meetで直接話せる回数が増えた.この1年いろいろなことがあったが,PTGで言えば,これまでの研究成果をまとめた本を日本語で書いたのが大きい(今,出版社で校正中).その本を書き終わった途端,日本語でモノを書くのが週に一回になってしまったので,今日は久しぶりにブログを書くことで頭の体操をしたい.新型コロナの論文をレビューする.
- 問題と目的:社会心理学そして哲学で著名なレヴィンの「集団」と「個人」,「マクロな視点」と「ミクロな視点」の相互作用にもとづいて,新型コロナ禍における人間の行動を説明することが本研究の目的である.
- マクロな視点として,政府がどれくらい厳しく人の行動を統制していたかという指標
- ミクロな視点として,個々人の性格(ビッグファイブ:開放性,勤勉性,外向性,協調性,そして神経症傾向)
- 従属変数は,新型コロナのパンデミックが始まったばかりの3月から4月における「外に出歩かない」という行動についての自己報告
- 方法:55か国から10万人以上の人がオンラインによるアンケート調査に回答した.平均年齢は39歳.ブラジル,アメリカ,イギリス,ドイツの各国から1万人以上が参加しており,後は国によって大きな差がある.日本からは567名の方が参加した.政府によるガイドラインの厳しさを測定するための7項目(公共交通機関の運営状況や学校が休校になっているかどうかなど)と,ビッグファイブを測定する10項目(TIPI),先週一週間どの程度家に引きこもっていたか,そして年収や学歴,性別などの調査項目が含まれていた.
- 結果:メインの結果は三つある.
- 政府の方針が厳しければ厳しいほど,その地域の人たちは家で過ごす確率が高まる(正相関)という当然の結果が一つ目.もし両者が無相関で政府が示したガイドラインに何の効果もないことがわかりでもしたらかなりショックだし,逆に両者に負の相関がみつかってしまって,つまりは政府が厳しく統制すればするほど,皆,言うことを聞かず勝手なことをするようになるといった結果ならかなり危ないので,当たり前の結果が出ていて良かったと胸をなでおろす.
- 次に,ミクロな個人レベルでの性格について.ビッグファイブの内,外向性以外の四つの性格傾向が高ければ高いほど,家で過ごす確率が高まるということが明らかにされている.中でも開放性は強い正の関連を示しており,新たな環境に抗うのではなく適応していこうという柔軟な態度が,コロナ禍における望ましい行動に影響したのかもしれない.外向性に関しては逆で,高いほど家で過ごす確率が低くなっていた.外向的な人は,文字通り外に出て誰かと一緒の時間を過ごすのが好きなのだから,まあ当然の結果だと言えよう.残りの三つは比較的弱い関連しか示していないものの,私が関心を持ったのは,通常「神経症傾向」が「勤勉性」や「開放性」「協調性」と負の関連にあるのに,この四つが全部同じ方向を向いて「家で過ごす確率」と正の相関を示している点だ.神経症的な人が心配で「家で過ごす」のも,勤勉性の人が自分を律してきっちりしておきたくて「家で過ごす」のも,行動面での結果だけ見れば変わらないんだろう.
- そして,この論文のウリは,政府の方針と個人の性格の相互作用にある.ビッグファイブの内,二つの性格(開放性と神経症傾向)とコロナ禍における行動の関連は,政府のガイドラインの厳しさ次第であるという結果だ.具体的には,政府の方針が厳しければ,開放性や神経症傾向という性格が行動に及ぼす影響がほとんどなくなり,皆がガイドラインにそう行動を取るようになるが,政府の方針が厳しくない場合,自分次第となる.その際,開放性が高ければ高いほど,また,神経症傾向が高ければ高いほど,たとえ政府の方針が厳しくなくても,家で過ごす確率が高まっていた.
- 考察:本研究から,コロナ禍における一人一人の行動は,政府のガイドラインと個々人の性格,そして両者の相互作用によってある程度は説明できることがわかった.興味深いのは「開放性」が家で過ごす確率と正の相関を示していた点である,というのも,先行研究では「開放性」が高いほど危険を伴うような行動に躊躇せず飛び込む傾向も高いことが明らかにされているからである.もしかすると「開放性」が政治に対する態度と関連するがゆえに,行動と関連したのかもしれない.例えばアメリカの場合,開放性が高いほど自由主義の傾向が高い,すなわち今で言うなら民主党支持者であり,トランプ大統領支持者よりもコロナ禍の状況を深刻に(あるいは真剣に?)とらえているがゆえに,ガイドラインに沿うような行動,ないしはコロナ禍で望ましい行動を取る傾向が高まったのかもしれない.言うまでもなく,本研究は自己報告に頼っているため,どこまで真実を反映できているかは不明である.
2005年からアメリカで生活をしてきてこの1年ほど国内の分断を意識した年はない.私のいるミシガンは4年前トランプ大統領を支持する人の方が多かった.それが今回赤から青へと変わった.僅差だったという事実が意味するところは,今回もトランプ大統領を支持した人が結構な数いたわけで,その内の多くの人が選挙で敗北したという結果をイマイチ信じていない.心のどこかでバイデン大統領はズルして勝ったと思っている.大学という場は比較的民主党が多いが,だからこそ共和党支持者の学生たちが居場所がないと感じることがないように,こちら教員も注意を払う必要がある.今,特にオンラインで授業や研究室の運営をしているため,すべて録画される.ちょっとした軽口がエライことになるので,中立を心掛ける心構えが必要だ.マスクはしよう,不要不急の外出は避けようという当然のことですら,それに心の底から反対する人がたくさんいるので,他人の行動をコントロールできない以上,自分で自分の身を守るしかない,というわけで,私は,ほぼ引きこもりの生活になっている.けれども家でできる運動やらラジオ体操をして,食料品はデリバリーでお願いして,自由時間がたくさんあるので本を読んだり,本を書いたり,論文を読んだり,論文を書いたり.今は,自分がずっと書きたくて構想をあたためていた本が完成したので,昨年から取ってきたコロナに関するデータで論文を書いている.また,ありがたいことに今年はサバティカルを取れたので,5月から8月,そして10月から12月は日本に一時帰国を予定している.もちろんコロナ次第だし,かなわないかもしれないが,かなうといいなと願っている.日本の研究者と会って,直接の会話から,またいろんな刺激を受けたい.
以上.