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Johnson et al. (2017)

11月 25, 2017

Johnson, J., Panagioti, M., Bass, J., Ramsey, L., & Harrison, R. (2017). Resilience to emotional distress in response to failure, error or mistakes: A systematic review. Clinical Psychology Review, 52, 19-42. doi: 10.1016/j.cpr.2016.11.007

心的外傷後成長のプロセスを見る研究では,出来事が予期せず襲い掛かってくるようなパターンが多い.心の準備もままならない間にさまざまなことが降りかかってきて,心の整理がつかない.なすすべもなく,どん底に突き落とされてそこからまたどう生きるか.そこでの葛藤や心のもがきとPTGは親和性が高い.けれども,なすすべがいくらでもあったのに,自分にできることがたくさんあったのに,それをしなかったために出来事が起きてしまった時はどう考えたら良いのだろう.どん底に突き落とされたのではなく,自業自得の場合.いくらでも防げたのに...3年くらい前から私の研究室ではそういう状況でのPTGも研究してきていて,やっとデータが揃い始めた.今日はそのデータをまとめる上で参考になりそうな論文をレビューしたい.

  • 論文の種類:この論文は新たにデータを取って仮説検証したものではなく,出版されている論文をある基準にそって集めてレビューしたものだ.38の論文(中には複数の研究を一本の論文にまとめているものがあるので,合計では46の研究)をまとめたものである.
  • 問題と目的:さまざまな失敗体験やミス,エラーが,抑うつなどメンタルヘルス上の問題を引き起こすことが知られている.例えば青年期に学業で失敗すると成人期の抑うつにつながることがある.また,たとえ一回の失敗であっても重篤な症状を引き起こすことがある.失敗経験が気分に及ぼす影響があまりにも一貫しているため,社会心理学では,悲しみやフラストレーションなど負の感情を一時的に引き起こす必要がある場合には,わざと失敗させるような課題が実験でよく用いられているくらいである.とは言え,失敗したからと言ってもちろん全ての人が深刻なストレスに悩むわけではない.そういう状況において「レジリエント」な人が存在する.本研究では,本来であればストレスをもたらすような「失敗体験」に引き続いて,ストレス症状を出さずにすんだ人たちに見られる共通の特徴をレビューすることによって,レジリエントな要因を特定したい.
  • レジリエンス:レジリエンスの研究では,症状を引き起こすメカニズムに注目するのではなく,むしろ,ストレスをもたらす状況下で,人はどう持ちこたえることができるのか,たとえストレスを感じたとしても,どう,ばねのように比較的速やかに回復することができるのかに焦点を当てる.ただ,これまでのレジリエンス研究では,レジリエンスの定義や測定の仕方が研究者間でばらばらであり,特にレジリエンスを先に定義してそれを測定するための項目を後から準備するというトップダウン形式の研究が多いため,「レジリエンス」と名づけていなくても「レジリエント」な要因を研究している論文はたくさんあるのに,それらが見過ごされているという状況がある.そこで「レジリエンスの二次元モデル(Bi-Dimensional Framework for Resilience (BDF)」を提唱することによって,レジリエンスを定義しなおしたい.
  • レジリエンスの二次元モデル:このモデルでは,リスクとレジリエンスという二つの次元を仮定する.
    • リスクの軸には「低」リスクから「高」リスクまで一次元上に程度の異なるリスクを仮定する.
    • レジリエンスの軸には「低」レジリエンスから「高」レジリエンスまで一次元上に程度の異なるレジリエンスを仮定する.
    • リスクが「低レベル」ですんでいる場合には,レジリエンスの程度にかかわらず,そこからもたらされる結果変数としてのストレス症状は低いと仮定する.
    • リスクが「中程度」から「高レベル」なものへと深刻さが増すにつれ,レジリエンスが威力を発揮するはずだと仮定する.「高レベル」のレジリエンスを兼ね備えている個人は,「高レベル」なリスク下においてもストレス症状が重篤にならずにすむが,「高レベル」なリスク下においてレジリエンスが低レベルだと「ハイリスク」となり,結果変数としてのストレス症状が重篤なものになると仮定する.
    • このモデルに従うのであれば,レジリエンスを扱っている論文は,例外なく(1)「リスク要因(=失敗やエラーなどストレスを引き起こすような出来事)」が含まれており(2)「レジリエンス要因(=ストレスなどの結果変数とリスク要因の間を媒介する要因)」が含まれており,かつ(3)「結果変数(=抑うつ症状,ストレスなど)」があるものとなる.論文そのものに「レジリエンス」というキーワードが含まれているかどうかは無関係である.
  • レビューする論文を選ぶ基準:上述の三つの基準にあわせて論文を選んだ.
    • (1)失敗やエラー,ミスといったキーワード,
    • (2)調整変数,相互作用といったキーワード,
    • (3)不安,抑うつ,罪悪感といったキーワードである.
    • このレビューでは,成人のみ,英語の論文のみを対象とした.
  • 結果:217本の論文のうち,質的デザインのものや子どもの論文などを除き,最終的に38の論文を分析対象とした.
    • (1)レビューの対象となった論文の多くが,大学生にコンピュータによる課題に取り組んでもらい,意図的に失敗の状況を作り出すというものであった.実生活における失敗体験をターゲットにした研究は,我々の分析対象にはほとんど含まれて居なかった.また人間関係上の失敗は,その定義が複雑になるので今回のレビューには含めなかった.
    • (2)レジリエンス要因として論文の中で取り上げられていた要因には,コーピングやパーソナリティなどさまざまななものがあった.
    • (3)結果変数の多くが抑うつ,不安,一般的な感情であった.ベック抑うつ尺度など妥当性がこれまでに検証されてきた尺度がよく使われていた.
    • 本研究では,メタ分析を行うことができなかったため,Effect Sizeを出すことはできなかったが,Box Scoreアプローチによって変数間の関連にもとづき研究の本数を数えるという手法で分析した結果,失敗体験に引き続くストレス症状の緩和に有効であった要因が,三つ特定された.自尊感情,ポジティブな帰属様式,そしてあまり完璧主義ではないことである.
  • 考察:臨床群,一般群問わず,レジリエンスを育むプログラムの重要性が示唆されている.特に昨今,アセスメントや評価の重要性が強調されていることから,日常的にミスやエラーがつきものの職業に従事している人達(医師など)は,過酷なストレスにさらされている.そのため現状のストレスに対処することはもちろんのこと,将来のストレスを予防するという意味でもレジリエンスを育成する介入プログラムの効果が期待されている.というのも,エラーによってストレスが重篤になると,さらにエラーを起こす傾向が高くなるという悪循環があるからだ.我々の分析からは,そういった介入プログラムにおいて,ここで特定されたような要因(すなわち,自尊感情を高め,ポジティブな帰属が可能になるような認知を促し,完璧主義に陥らないようにすること)を促進することが重要だと言えるであろう.

この論文が採用しているレジリエンス研究の特定の仕方は納得できるし,彼らがこれまでに行ってきた自殺とレジリエンスの一連の研究から学ぶことは多い.ただ,レビューの結果見出された要因が,頭では分かるんだけれど,腑に落ちる感じはしない.

とんでもない過ちをおかしてしまったと気づいた時,取り返しのつかない状況になってしまった時,ああ,終わった...なんであの時...そのような状況で,これまでに培ってきた「自尊心」やら「考え方や心のもちようによって,なんとかポジティブに原因帰属できないか」考えてみたり,「人間なんだから完璧は無理」と言い聞かせたりしても,なんの足しにもならないことがある.自業自得な上に,自分のしてしまったことで,大変な思いをせざるを得なくなっている他人がいる場合,彼らは過ちを犯した人間が,こういったレジリエンス要因をうまく活用することを望むだろうか.

始末書を書いたり,罪や過ちを告白したりして,償いのチャンスを得て,許される選択肢があって前に進める場合もあるだろう.でもそんな道がなく,ただ後悔.それでも,そういった経験をきっかけとしてPTGを経験する人がいるのであれば,その内容や道のりが知りたいと思う.迷惑をかけた人や犠牲になった人,被害に合った人たちが経験する可能性のあるPTGと共存できるPTGの可能性を知りたいと思う.「ドンマイ」の方向にいかなくても,破滅の方向にもいかない,いろんな道がたくさんあるはずだから,さらに実証研究,臨床実践研究を重ねて,そこのところを照らしたい.

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