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Lykins, Segerstrom, Averill, Evans, & Kemeny (2007)

4月 8, 2013

Lykins, E. L. B., Segerstrom, S. C., Averill, A. J., Evans, D. R., & Kemeny, M. E. (2007). Goal shifts following reminders of mortality: Reconciling posttraumatic growth and terror management theory. Personality and Social Psychology Bulletin, 33, 1088-1099. doi: 10.1177/0146167207303015

私の研究の大枠は,ノースカロライナ大学シャーロット校の心理学部の3人の教授,テデスキー,カルホーン,カン博士がこの15年くらい発表し続けているPTG理論モデルにのっとっている.PTG理論モデルというのは,本人にとって非常に大変でつらい出来事が起きたことをきっかけとして,PTGが生じるまでの流れを示したものである.例えば,「出来事の衝撃度がその後のPTGに影響を及ぼす」という仮説もこのモデルにのっとっているし,「起きた出来事に対して自らどう意味づけ考えたかがPTGに影響を及ぼしている」という仮説もこのモデルからうまれたものである.このモデルに対して異議を唱えている理論のひとつが,脅威処理理論ないしは脅威管理理論(Terror Management Theory: TMT)である.

PTG理論では,事故にあったり,重い病を患うなど,死の恐怖を感じるような出来事に直面した後,人生に対してそれでも感謝の気持ちが出てきたり,人とのつながりを再確認できたり,それまでにはなかったような新しい道筋が見えてきたりといった,人間としての成長とよばれるポジティブな変化が起きてくると説明している.そしてそのことは,PTGIを用いた調査研究や面接で数多く示されている.一方のTMT理論では,死の恐怖を感じると,人はそれに対して防衛的にならざるを得ず,死の不安を少しでもやわらげるために,自分を過大に評価したり,自分の仲間うち,つまり自分の文化をよりプラスに考える(同時に外の集団を排除したり,低く評価する)という対処を取る.そしてこのことは,さまざまな実験を用いたTMT研究で数多く示されている.

これを言い換えると,人はいずれ自分も死ぬという運命に直面すると,PTG理論では,人はより内発的な目標へと方向転換するが,TMT理論では,人はより外発的な目標へと方向転換するという違いがある.内発的な目標とは,社会に少しでも貢献しようとか,お金よりも別の大事なものがあると価値観を変えることとか,人とあたたかな関係を作るとかであり,外発的な目標とは,不安解消のために,物欲を満たそうとしたり,富に価値を置いたり,自尊感情を高めようとすることなどである.

この論文の著者は,PTG理論とTMT理論の両者の違いを,3つにまとめている.そしてその3つにそれぞれ対応するように3つの研究を行い,3つの仮説を検証し,3つのエビデンスをまとめ,それをこのひとつの論文の中で発表している.

  1. PTG理論によってたつ研究では,自分もいずれ死ぬ運命にあるということに直面させられるような出来事(交通事故,震災など)のみではなく,死とは必ずしも直接的な関係がない出来事(大学受験への失敗,遠い場所への引越し,両親の離婚など)からもPTGがおきえると説明されている.そのため,死の脅威を伴うような出来事とPTGの関連が,他の出来事とPTGの関連とどう違うのかを明らかにする必要がある.
  2. PTG理論によってたつ研究では,実際に何らかのストレスやトラウマを経験した方,あるいは経験中の方(サバイバー,被害者,被災者,患者の方々など)に調査を行うため,自分もいずれ死ぬのだということを考える期間が数日から数週間,あるいは数ヶ月,数年と非常に長いし,個人差も大きい.けれど,TMT理論は実験にもとづいた研究が多いため,現実とは異なり,死に直面させられる時間が秒単位,ないしは分単位と非常に短い.そのため,この時間的影響について考慮する必要がある.
  3. PTG理論によってたつ研究では,上述のように,実際の生活にもとづいていることから,考える期間も長いため,認知処理に関して段階を踏むことが可能になる.つまり,まず第一段階として,侵入的思考の期間がある.生死にまつわることが頭の中を占め,他のことを考えようと思っても,どうしてもそのことが頭から離れないという段階である.けれども,他の人と話をしたり,自分の生活をしたりしていくなかで,徐々に思考がより意図的,前向きなものへと変化することがありえる.けれどもTMT理論にもとづく研究では,実験によって一時期的に不安を喚起し,その認知処理を強制的に促すため,どうしてもこのプロセスが「引き起こされた不安への対処」の性質をもつものとなる.そのため,プロセスのタイプ別によってその効果を検討する必要がある.

この論文は本当に読み応えがあって,すごく勉強になった.学術誌のなかや学会では,PTG理論対TMT理論はもう随分長い間論争が続いている.TMTモデルにたつ研究者が,PTGというのは結局,本当に成長したという現象を示しているのではなく,成長したと思い込み,自尊感情を高めることで不安に対処しているにすぎないのだと言えば,PTGモデルにたつ研究者は,実験で強制的に不安を喚起することで得られた知見をPTGの説明に応用することはできるはずもなく,実際に人間的な成長というのはこの世の中で起きているではないかと反論する.

もちろん,こういう狭い研究社会での論争は,外から見ると不毛に見える面もあるかもしれないけれど,私からすると,すごく刺激になる.PTG研究はPTGの中のみで収束してしまうと視野がどうしても狭くなり,発展に欠ける.PTGとは別の理論を勉強することは,結局PTG研究へのさらなる足がかりを作ってくれることとなる.この論文の著者たちは,タイトルに示されているように,両者は必ずしも相容れないものではなく,むしろお互いに補い合うことができるものなのだということを様々な研究デザインでもって示している.何にも難しい統計処理などしていないのに,PTG研究を一歩進めてくれた貴重な論文.忘れないうちに,今書いている論文の考察のところで早速引用しよう:)

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