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Phelps, McCammon, Wuensch, & Golden (2009)

11月 3, 2013

Phelps, K. W., McCammon, S. L., Wuensch, K. L., & Golden, J. A. (2009). Enrichment, stress, and growth from parenting an individual with an autism spectrum disorder. Journal of Intellectual & Developmental Disability, 34, 133-141. doi: 10.1080/13668250902845236

PTGの研究は,文字通り,「トラウマ」を経験せざるを得なかった人たちを対象として積み上げられてきたけれど,ここ数年はそれを他の対象にも応用できないだろうかという観点から,狭義の「トラウマ」を必ずしも経験していない人たちのPTGが多く研究されている.それには,「トラウマ」とは呼ばないけれど「非常にストレス」な出来事(例えば受験の失敗や失恋)を経験した人たちを対象とした研究もあれば,看護士や社会福祉士,医師,臨床心理士,救急救命士など心身の健康にかかわる専門職についている人たちを対象とした研究もある.そして,そのような応用例の一つが,この論文にあるような,発達障害を抱えた子どものお父さんやお母さんにみられる成長だ.この領域の論文はまだ数が少ない.この論文の著者が言っているように,発達に問題を抱えた子どもの療育に関してはその大変さが特にクローズアップされてきたという歴史があるからだと思う.けれど,それにもまして,この領域の研究の難しいところは,「子どもとの毎日のなかで,自分自身が成長させられている」との実感がなぜもたらされるのかを,理論的にどう説明するかが難しいところにあるように思う.認知プロセスを強調した今のPTGモデルでは説明されえない要因がたくさんある.この論文の著者は,「自分の子どもが,他の多くの子どもたちがたどるような典型的な発達の道筋と違う」ということに気づいて,はっとすることが,PTG理論で説明されているような,認知機能を突き動かすきっかけになり得ると仮定して,この研究を行っているようだ.

  • 目的:自閉症スペクトラムと診断された子どもを持つ親を対象として,子どもの障害の程度と,親の生活に関する主観(ストレスと逆により豊かになったと言える部分)そしてPTGの関係を調べること.PTG理論では,ストレスがあることがPTGの引き金になると言われているため,本研究でも両者には正の相関があるとの仮説を立てる.すなわち,子どものコミュニケーション能力が低かったり,行動上の問題が多かったりなど,自閉症の程度が強ければ強いほど,ストレスが高まり,その結果としてPTGも高いという仮説を立てて,それを検証する.
  • 対象:自閉症スペクトラムと診断された子どもを持つ,80名の養育者(ほぼ母親)
  • 方法:質問紙調査(子どもの自閉症の程度をチェックするSCQ: Social Communication Questionnaire;17の子どもの養育の状況に関して,それが親である自分自身の生活にどれくらいストレスとなっているか,さらに,それが逆に親である自分の生活のその部分をどれくらいよりよいものへとしてくれたかをチェックするESQ: Effects of the Situation Questionnaire;そしてPTGI).PTGIは教示を,「自閉症スペクトラムの子どもを持ったことをきっかけとして,あなたの生活に以下の21項目のような変化がどの程度あったか答えてください」と変更して使用した.
  • 結果:PTGIの得点は,他のさまざまなPTG研究の結果と比べるとかなり高かった.また,子どもの自閉症の程度が強ければ強いほど親のストレスが高いだろうと仮説を立てたけれどそれは支持されなかった.親のストレスと子どもの障害の程度はほぼ無相関だった.SCQの得点と,ESQの二つの得点を予測変数として,PTGI得点を結果変数として重回帰分析をしたところ,有意な予測子は,ESQの中の「自分の生活をどれくらいよりよいものにしてくれたか」についての認知のみであり,ストレスが関係するだろうとの仮説は支持されなかった.
  • 考察:本研究からは,養育者のPTGにとって,子どもの障害の程度は関係ないことが示唆された.むしろ,養育者自身の資源(リソース)や,ソーシャルサポート,コーピングなどがPTGには影響しているのだろう.自閉症スペクトラムと診断された子どもを育てるということは,一時的なものではなく,生涯続くことなのだから,この領域のPTGを研究するということは,その人の人生全般にわたる人間としての成長の道筋を研究することであり,非常に重要な意味を持つだろう.ますますの研究,特に縦断的な研究が必要とされている.

というわけで,発達障害を抱える子どもを持つ親のPTGを扱った数少ない貴重な論文だ.著者らは,思ったような仮説が支持されなかったというけれど,私からすると,もし彼らが,「PTGには客観的な出来事の衝撃は影響せず,むしろ主観的な自分自身のとらえ方が影響しているだろう」との仮説を立てていたら,それは支持されていたんじゃないかなと思う.

私が一番印象に残ったのは,PTGI得点の高さだ.ここまではっきり教示文を変えて,自閉症スペクトラムの子どもを持ったことをきっかけとしてと聞いていて,この高さ.子どもへの深い愛情と,毎日の大変な育児や療育の中にあるやりがいが示唆される.

すべての親がPTGを抱くことはありえないわけだから,どのような変数がPTGを予測するのかという研究はこれまでと同様にあっていいだろうけれど,将来的には,PTGの実感がある親はPTGの実感を持たない親と比べて,日々の子どもとのかかわりに何か違いがあるのだろうかとか,家族全体のダイナミックな動きや雰囲気に何か違いがあるのだろうかというように,PTGを独立変数にした研究が待たれると思う.

さらに,この領域の研究を通して,現行のPTGモデルには含まれていない,何か見落としている大切な変数(子どもと親の相互性とか,親だけのPTGではなくて,家族全体としてのPTG?)がみつかるとおもしろいし,PTG研究が直面している壁(PTGを自覚したからと言って,PTSD症状が全快するわけではないのならば,PTG研究の意義はどこにあるのかという根本的な問題)を乗り越えるヒントを与えてくれるように思う.

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