アーカイブ
Dekel, Mandl, & Solomon (2013)
Dekel, S., Mandl, C., & Solomon, Z. (2013). Is the Holocaust implicated in posttraumatic growth in second-generation Holocaust survivors? A prospective study. Journal of Traumatic Stress, 26, 530-533. doi: 10.1002/jts.21836
私が所属しているOakland Universityの心理学部は進化心理学がものすごく盛んだ.うちの大学院に応募してくる学生の多くが進化心理学を学びたくて来る.そのため,どれだけ一人ひとりの院生が違うテーマを選んだとしても,その背後に,私達が生まれてくる以前の人類の歴史とか,人間以外の生き物の進化とかが必ずと言っていいほど入ってくる.私は自分自身がそういう授業を受けたことがないこともあり,勉強がなかなか追いつかない.で,そんな中から湧いてくる疑問.人は自分の先祖が経験したトラウマにどう影響されているのだろうか.トラウマの世代間伝達.このテーマに関しては,PTSDを中心としたネガティブな影響に焦点を当てて,かなり研究がなされてきているが,果たしてPTGにはどのような影響があるのだろうか.イスラエルの研究者ソロモンらが,その可能性を検討しているので,今日はそれをレビューしたい.結論から言うと,第二世代(つまり親がトラウマサバイバー)であるという事実はPTGに負の効果,つまりPTGを抑制するようだ. 続きを読む…
DeViva et al. (2016)
DeViva, J. C., Sheerin, C. M., Southwick, S. M., Roy, A. M., Pietrzak, R. H., & Harpaz-Rotem, I. (2016). Correlates of VA mental health treatment utilization among OEF/OIF/OND veterans: Resilience, stigma, social support, personality, and beliefs about treatment. Psychological Trauma: Theory, Research, Practice, and Policy, 8, 310-318. doi: 10.1037/tra0000075
8ヶ月に及ぶ日本でのサバティカルが終わった.その最後に,次につながる興味深い論文をみつけたので紹介したい.この論文では,「PTSD症状などが出ていないかスクリーニング検査をうけた結果,精神的健康に問題があるから,クリニック等の援助機関にリファーされた退役軍人」を対象に,彼らがリファーされた後,通院が継続するかどうかを検討している.研究者としては,受診につながり,治療施設が利用されることが望ましいわけだから,「実際の通院回数」や「心理療法と薬物療法の両方を受けたか」などを結果変数として,それに影響を及ぼす要因を検討している.その要因の中にPTGやレジリエンス,パーソナリティ,ソーシャルサポートなどが含まれている.そういった要因を調査した半年後に,調査協力者の治療記録にアクセスできるというのは,医療機関に所属している研究者だからこそのメリットであるかもしれないが,それにアクセスできてしまうからこそ,結果変数が「治療を受けたかどうか」というわかりやすいものになってしまい,それは(私の目からみると)デメリットである. 続きを読む…
Lehav, Solomon, & Levin (in press)
Lehav, Y., Solomon, Z., & Levin, Y. (in press). Posttraumatic growth and perceived health: The role of posttraumatic stress symptoms. American Journal of Orthopsychiatry. doi: 10.1037/ort0000155 (Advance online publication)
イスラエルのトラウマ研究者,Solomon博士と彼女の研究グループが発表した論文をレビューする.オンライン版がこの2月に出たばかりの最新の論文だ.この論文の目的は,PTGの二面性を身体的健康との絡みで検討しようという点にある.PTGの二面性とは:
- 本当の本当にポジティブな方向に人間性が変わるという意味での真の人格的成長という側面と,
- 本当は何も変わっていないのに防衛反応としてそう思い込んでいるだけであり,長期的に見るとむしろ不適応的な,幻の成長という側面
である.この二面性に関する議論がはじまってもう10年以上が経過していて,PTGは何ぞやに答えがないように,幻のPTGは何ぞやにも答えは出ていない.なので,研究者それぞれがこの両者を操作的に定義して研究することになる.この二面性に関して,ソロモンらは,もしも,調査参加者本人が言っているように,本当の本当に(しつこいか?)成長しているのであれば,長期的にみてストレス反応は弱まり,身体は健康になっているはずであると仮説を立てる(ちなみに私はなぜこういう仮説が成立するのか納得できない).結論から言うとこの仮説は成り立たず,PTGを経験している人ほどむしろストレス反応が高く出るという結果を得て,彼女らはPTGの負の側面をあぶりだしたという結論(つらい戦争及びそこで夫が戦争捕虜になったという痛ましい出来事をきっかけに成長していると頭では思っていても身体は正直だ,つらさがひどくなっているではないか,という結論)でこの論文を閉じる. 続きを読む…
Peterson et al. (2008)
Peterson, C., Park, N., Pole, N., D’Andrea, W., & Seligman, M. E. P. (2008). Strengths of character and posttraumatic growth. Journal of Traumatic Stress, 21, 214-217. doi: 10.1002/jts.20332
今日はピーターソンとセリグマンらによる「Strengths of character(性格の強み,長所)」という概念とPTGの関連を検討した論文をレビューしたい.人が成長するといった時のその「成長」の具体的な内容には個人差があるが,その内容を大きく分類したときのカテゴリー(いわゆる5領域)は多くの国で観察されることが知られている.
- 人間としての強さ
- 他者との関係
- 新たな可能性
- 精神性的な変容
- 人生に対する感謝
Pat-Horenczyk et al. (2015)
Pat-Horenczyk, R., Perry, S., Hamama-Raz, Y., Ziv, Y., Schramm-Yavin, S., & Stemmer, S. M. (2015). Posttraumatic growth in breast cancer survivors: Constructive and illusory aspects. Journal of Traumatic Stress, 28, 214-222. doi: 10.1002/jts.22014
PTGの二面性についての研究が盛んだ.PTGには裏の顔,つまりポジティブで良い意味の成長という側面だけではなく,逆に真実にしっかり向き合わない,幻想とも言うようなネガティブな側面があることを論文の中で指摘したのはドイツの研究者Maercker & Zoellner (2004)だ.2004年というともう10年以上前になる.その2004年の論文というのは「Psychological Inquiry」というジャーナルでPTGについての特集が組まれた年にあたる.そこには16ほどのPTGに関する論文が収録されていて,Tedeschi&CalhounのPTGモデルもそこで紹介されている.さて,この二面性は「Janus Face Model(ヤヌスの顔ー前向きと後ろ向きの顔を持つ神ーモデル)」として紹介されたが,それに対して研究者はその後さまざまな反応を示して,「いや,PTGは幻想なんかではない」とかたくなに信じてそれを証明しようとする論文もあれば,「少なくともPTGIで測定しているPTGはすべて幻想でしかない」とわりと極端な主張をしている論文もある.けれども多くの研究者は,まあPTGには両面あるでしょうという感じだ.私自身もその「両面あるでしょう」の立場だし,今日読んだこの論文もまた「両面あるでしょう」という感じだ.けれども彼らの研究の独創的な点は,PTGとコーピングを組み合わせて,PTGの二面性をあぶりだそうとしたところにある. 続きを読む…
Moore et al. (2011)
Moore, A. M., Gamblin, T. C., Geller, D. A., Youssef, M. N., Hoffman, K. E., Gemmell, L., Likumahuwa, S. M., Bovbjerg, D. H., Marsland, A., & Steel, J. L. (2011). A prospective study of posttraumatic growth as assessed by self-report and family caregiver in the contexdt of advanced cancer. Psycho-Oncology, 20, 479-487. doi: 10.1002/pon.1746
学会APA(American Psychological Association)が終わった.Dr. Steven Hobfollのトークを聞いて彼と話ができたことは大きな収穫になった.PTGに反対している研究者と意見を交わすことはいい刺激になる.またプライミングを使った実験研究にたくさん触れることができたのも収穫だ.それに関連してTMT(Terror Management Theory: 存在脅威管理理論)の研究発表がいくつかあって,彼らとPTG対TMTの話ができたのも大きい.ミシガンに戻ってから久しぶりにまた脇本竜太郎氏の「存在脅威管理理論への誘い(サイエンス社)」を読んだ.「存在論的恐怖を思い起こさせるような刺激や状況に出会うと,人は自尊感情を獲得するような反応を示したり,文化的世界観を擁護したりするようになる(P.10)」というTMT研究で積み上げられてきた知見に依拠するならば,PTGもまたそのような状況において圧倒的な恐怖から自らを守るためのメカニズムと言えるのかもしれない.でもそうかな.それで説明できるのかなという漠然とした疑問もある.そんなことを考えつつ,このMooreらの論文を読んだのでそれをレビューしたい. 続きを読む…
Taku & Oshio (2015)
Taku, K., & Oshio, A. (2015). An item-level analysis of the Posttraumatic Growth Inventory: Relationships with an examination of core beliefs and deliberate rumination. Personality and Individual Differences, 86, 156-160. doi: 10.1016/j.paid.2015.06.025
早稲田大学,小塩真司さんとの共著論文をレビューしたいと思う.PTGIという自己記述式の尺度が1996年に発表されてから20年弱が経過しているが,ここ数年,PTGIの妥当性にまつわる研究が増えている.これら妥当性に関する研究の三分の一くらいが,「この尺度には妥当性に問題がある.このままの形で使うべきではない.これを使って発表されてきたこれまでの全ての論文は真のPTGを反映しているとは言えない.即刻やめて,これからは別の方法を考えるべきだ」と言っていて,三分の二くらいは,「この尺度には妥当性がある.だからと言って尺度が完璧であって改善の余地がないとは言わないが,これを使って発表されてきたこれまでの全ての論文には意味がある.これからもさらなる開発,発展を考えていくことが必要である」と言っている.そこで,私たちは,このどちらの側に立つとか,どちらの方が正しいとかを議論するのではなく,そのいわば中間,この尺度には妥当性が「ある」部分と「ない」部分が混在している可能性があるのではないか,という仮説を立ててこの論文を執筆した. 続きを読む…
Jayawickreme & Blackie (2014)
Jayawickreme, E., Blackie, L. E. R. (2014). Posttraumatic growth as positive personality change: Evidence, controversies and future directions. European Journal of Personality, 28, 312-331. doi: 10.1002/per.1963 「European Journal of Personality」という人格心理学専門の学術雑誌で,昨年PTGの特集が組まれた.この号では,アメリカのウエストフォーレスト大学の二人の研究者がPTG研究について現在問題となっている点を指摘し,今後どのような研究が必要かについて提言を行っている.私なりに解釈すると,著者には二つ言いたいことがあるのだと思う.ひとつめ.PTGIという尺度を用いた横断的な研究手法が氾濫しているせいで,PTGの研究の発展が妨げられている.研究者はPTGIを使うのを今すぐやめるべきである.ふたつめ.人格心理学者がPTGにもっと関心を持つべきである.生涯発達の見方を持ち出すまでもなく,パーソナリティが変わり得るということは知られている.大変なストレスを引き起こすようなつらい出来事から人がどう変わるかというPTGにパーソナリティ心理学がこれまで蓄積してきた研究方法論や理論を導入することで,PTGの理解もより深まるだろうし,パーソナリティが発達・成長・変化するということに対する理解も深まるだろう. 続きを読む…
Shakespeare-Finch et al. (2013)
Shakespeare-Finch, J., Martinek, E., Tedeschi, R. G., & Calhoun, L. G. (2013). A qualitative approach to assessing the validity of the Posttraumatic Growth Inventory. Journal of Loss and Trauma, 18, 572-591. doi: 10.1080/15325024.2012.734207
私たちの研究室では,この9月からまた別の介入研究を始める.今回の調査はアメリカ人のみを対象とするものなので,研究計画書やアンケートはすべて英語のみの準備だった.でも将来,もし同じ研究を日本でやれるとしたらどんな感じになるのかなと思ったので,アンケートのみざっと日本語に訳して自分でやってみた.30分くらいかかった.「心的外傷後成長尺度(PTGI)」に回答するのは結構久しぶりだったので,なかなか新鮮だったけれど,同時に,各項目に対していろいろと思うところもあって,(PTGIは,やっぱりつっこみどころ満載だな…)という思いを新たにした. 続きを読む…
Hobfoll et al. (2007)
Hobfoll, S. E., Hall, B. J., Daphna, C.-N., Galea, S., Johnson, R. J., & Palmieri, P. A. (2007). Refining our understanding of traumatic growth in the face of terrorism: Moving from meaning cognitions to doing what is meaningful. Applied Psychology: An International Review, 56, 345-366.
PTGは研究者魂を熱くしてくれる.このレビュー論文も挑戦的な内容で,端的に言うと,「その出来事に意味があったと認知面でとらえること」に重点を置いたPTGの考え方から「その出来事の結果意味ある行動を取れるようになること」に重点を置いたPTGへと考え方を変えるべきではなかろうかという提言である.これを彼らは「Action-focused growth(行動に焦点を当てた成長)」と呼んでいる.つまり,自分がある出来事をきっかけに人間として成長したと自覚しているかどうかよりも,実際にその結果何をしているかという現実の行動が大事であり,行動上の変化を伴ってこそ真の成長であるという主張である.
Cann et al. (2010)
Cann, A., Calhoun, L. G., Tedeschi, R. G., Kilmer, R. P., Gil-Rivas, V., Vishnevsky, T., & Danhauer, S. C. (2010). The Core Beliefs Inventory: A brief measure of disruption in the assumptive world. Anxiety, Stress, & Coping, 23, 19-34. doi: 10.1080/10615800802573013
これは,テデスキ先生とカルホーン先生を含むノースカロライナ大学シャーロット校のPTG研究室メンバーの論文.PTGがどんなふうにして起きるのかを説明した理論モデルでは,出来事が起きるまでに自分が信じてきたたくさんのことが激しく揺さぶられ,自分の人生や人間関係などいろいろなことを問い直さざるを得ないような経験をすることが,PTGにとって大きな影響を与えると説明されている.この「自分が信じてきたことが揺さぶられる」という経験の,「揺さぶられ度合い」を測定することはとても難しく,議論は今も続いている.自分が信じてきたことそのものについて測定する尺度は,World Assumptions Questionnaire (WAQ)やWorld Assumptions Scale (WAS)をはじめとしていくつかあるけれど,そこに示されているような信念がどれくらい揺さぶられたか,問い直されたか,を問う尺度はこれまでなかった.なので,その一歩としてArnieが中心となって作成したのが,この「Core Beliefs Inventory(CBI:中核的信念尺度)」になる.この論文では,3つの調査を使って,CBIの信頼性及び妥当性を検討した結果がまとめられている.私たちは去年この尺度の日本語版を作り,データを取ったので,それを今年のAPAで発表する予定になっている.
Phelps, McCammon, Wuensch, & Golden (2009)
Phelps, K. W., McCammon, S. L., Wuensch, K. L., & Golden, J. A. (2009). Enrichment, stress, and growth from parenting an individual with an autism spectrum disorder. Journal of Intellectual & Developmental Disability, 34, 133-141. doi: 10.1080/13668250902845236
PTGの研究は,文字通り,「トラウマ」を経験せざるを得なかった人たちを対象として積み上げられてきたけれど,ここ数年はそれを他の対象にも応用できないだろうかという観点から,狭義の「トラウマ」を必ずしも経験していない人たちのPTGが多く研究されている.それには,「トラウマ」とは呼ばないけれど「非常にストレス」な出来事(例えば受験の失敗や失恋)を経験した人たちを対象とした研究もあれば,看護士や社会福祉士,医師,臨床心理士,救急救命士など心身の健康にかかわる専門職についている人たちを対象とした研究もある.そして,そのような応用例の一つが,この論文にあるような,発達障害を抱えた子どものお父さんやお母さんにみられる成長だ.この領域の論文はまだ数が少ない.この論文の著者が言っているように,発達に問題を抱えた子どもの療育に関してはその大変さが特にクローズアップされてきたという歴史があるからだと思う.けれど,それにもまして,この領域の研究の難しいところは,「子どもとの毎日のなかで,自分自身が成長させられている」との実感がなぜもたらされるのかを,理論的にどう説明するかが難しいところにあるように思う.認知プロセスを強調した今のPTGモデルでは説明されえない要因がたくさんある.この論文の著者は,「自分の子どもが,他の多くの子どもたちがたどるような典型的な発達の道筋と違う」ということに気づいて,はっとすることが,PTG理論で説明されているような,認知機能を突き動かすきっかけになり得ると仮定して,この研究を行っているようだ.
Osei-Bonsu, Weaver, Eisen, & Vander Wal (2012)
Osei-Bonsu, P. E., Weaver, T. L., Eisen, S. V., & Vander Wal, J. S. (2012). Posttraumatic Growth Inventory: Factor structure in the context of DSM-IV traumatic events. International Scholarly Research Network ISRN Psychiatry, Volume 2012, Article ID 937582. doi: 10.5402/2012/937582
最近の,PTGI(心的外傷後成長尺度)を用いた研究の傾向は,21項目の合計点(0-105)を使ってPTGをひとくくりにするのではなく,下位尺度つまり5つの領域ごとに,そのメカニズムをより詳細にみていこうというものだと思う.例えば,大学受験や資格試験への失敗といった,自分の関与が大きい出来事からは,「人間としての強さ」や「新たな可能性」に関するPTGが報告される傾向が高い.一方で,命や体に直接関係するような出来事からは,「人生に対する感謝」にまつわるPTGが報告される傾向が高い.そして,苦悩を伴う出来事を経験して,「自分には強い面があると思うようになった」との実感に代表される成長と「これまで当たり前だと思っていた日常のささいなことにも感謝するようになった」という成長は,本来性質が違うものだと言える.なので,PTGI21項目の合計点を従属変数にすえた研究をするということは,こういったいろいろな性質を持つPTGを全部ひっくるめてとらえることになるので,合計点はキープするとしても,下位尺度得点も見ていこうという考えが主流だと思う.そんななかで,この論文が発表された.この論文は一言で言うと,いろいろデータを分析した結果,因子構造はどれもしっくりこないので,合計点を使うのがいいのではないでしょうか,そしてそれが嫌ならばPTGIを改良して,ちゃんとそれぞれの因子に同じ項目数が行き渡るようにしてくださいというものだ.
Groleau, Calhoun, Cann, & Tedeschi (in press)
Groleau, J. M., Calhoun, L. G., Cann, A., & Tedeschi, R. G. (in press). The role of centrality of events in posttraumatic distress and posttraumatic growth. Psychological Trauma: Theory, Research, Practice, and Policy. doi: 10.1037/a0028809
6月のPTG&レジリエンス研究会で得たさらなる収穫は,「記憶」特に「自伝的記憶」という研究領域とPTGの関連だと思う.日本に一時帰国する直前の5月頭にMPA (Midwestern Psychological Association)という学会がシカゴであり,研究室のメンバーと参加し,私たちも3つの研究成果を発表した.その時にオハイオ州のMiami Universityから大学院生が何人が参加していて,彼らが”event centrality(出来事の中心性)”とPTGの関連について発表していた.それまで,UNC Charlotteのテデスキー先生たちから,Event Centralityという概念が注目されていて,自分たちもある調査で導入したとは聞いていたけれど,実際に勉強したことがなかったので,そのMPAの発表はとても新鮮だった.そして日本に一時帰国し,PTG&レジリエンス研究会の場で自伝的推論が御専門の認知心理学の先生と出会い,さまざまな概念(自伝的記憶,自伝的推論,出来事の中心性,想起時点での自己,自己定義的記憶などなど)について勉強させてもらうなかで,私の頭の中も,これまでまったく考えたことがなかった方向からPTGを見るチャンスとなり,整理されつつあるような感じがした.そしたらいいタイミングで,テデスキー先生たちから,この論文が「アクセプトされた」と連絡がきた. 続きを読む…
Tomich & Helgeson (2012)
Tomich, P. L., & Helgeson, V. S. (2012). Posttraumatic growth following cancer: Links to quality of life. Journal of Traumatic Stress, 25, 567-573. doi: 10.1002/jts.21738
PTGに関する研究が「研究のための研究」に陥る危険性と常に隣り合わせになっており,研究の意義が問われ続ける理由には,PTGそのものが介入の目標になりえないという点が挙げられる.それはDrs. Tedeschi & Calhounの論文の中でも繰り返し述べられているし,先のPTG&レジリエンス第3回研究会でも議論されたことである.この論文の著者もまた,アブストラクトを,「Clinicians should consider the notion that more growth may sometimes, but not always, be better」という一文で結んでいる.本研究は,がんの診断を受けた患者を対象に,PTGとQOL (Quality of Life)の関係を検討したものである.PTGの関連概念であるベネフィット・ファインディング(知覚された恩恵)を測定する尺度であるBenefit Finding Scaleを用いてこれまでに多くの論文を発表してきている二人の研究者が,この調査ではPTGIを用いているところが興味深い.ただし,PTGIをそのまま用いるのではなく,彼らなりに修正したものを使用している.このあたりも,先のPTG&レジリエンス第3回研究会で議論にのぼったように,尺度を対象・目的に応じてどんどん進化させてやるというアイデアのいい例になっている.
Ickovics, Meade, Kershaw, Milam, Lewis, & Ethier (2006)
Ickovics, J. R., Meade, C. S., Kershaw, T. S., Milam, S., Lewis, J. B., & Ethier, K. A. (2006). Urban teens: Trauma, posttraumatic growth, and emotional distress among female adolescents. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 74, 841-850. doi: 10.1037/0022-006X.74.5.841
PTGの論文は大人が対象となっているものが多い.今,私の研究室では,日米の高校生を対象にPTG の心理教育プログラムを開発してその効果研究をしているので,高校生が対象となっているPTG論文はとても貴重な資料となる.Ickovicsらのこの論文は,高校生が対象になっているというだけでなく,他にもいくつかの点でとても興味深い.例えば,縦断研究であること,出来事が起きたタイミングによって分析していること,PTGIを高校生に分かりやすく変えていることなどだ.でもそんななかでも一番私が興味を持ったのは,PTGのきっかけとなる出来事の聞き方だ.
Gregory & Prana (In Press)
Gregory, J. L., & Prana, H. (2013, online first publication). Posttraumatic Growth in Cote d’lvoire refugees using the companion recovery model. Traumatology. doi: 10.1177/1534765612471146
PTGは介入研究が難しい.PTGIを使って介入の効果を測定するのはもっと難しい.つらい出来事を経験した後でそこから何か恩恵や意味を見出すことができたかどうか,何か得たものがあったかどうかということとPTG,つまり人間としての成長を同じようなものだととらえるならば,何らかの介入の後で,今まで見えていなかったことに気づきを得ることは充分あると思う.というより,PTGは介入によって影響されるようなものではないということが言えてしまったらこわいし,PTGの研究者としては,介入の可能性があると信じてやっている.その上で,介入は本当に難しい.というのも,PTGはそれがなくても生きていけるようなものだと考えられているし,逆に,言葉にならないようなつらい思いを経験した人に,成長の可能性まで期待するなんて,そんな酷なことはないという見方をする人もいる.つまり,おまけのような要素が強いので,心理臨床家はそれを求めたり,ましてや成長を焦らせたりするようなことは絶対にあってはならないと言われている.そのために,PTGに直接第三者が介入できることを考えることにさえ,二の足を踏むような状況がうまれている.そんななかで,この研究者たちは,心理教育モデルを自分たちで作って,それをコートジボワールの難民の人たちに適用して,その介入の前と後でPTGIを実施し,得点の差を発表している.分析方法など問題点がいくつかある論文だけれど,介入の前後でここまで得点が変わるということのおもしろさもあってここで紹介したい. 続きを読む…
Levine, Laufer, Hamama-Raz, Stein, & Solomon (2008)
Levine, S. Z., Laufer, A., Hamama-Raz, Y., Stein, E., & Solomon, Z. (2008). Posttraumatic Growth in Adolescence: Examining Its Components and Relationship with PTSD. Journal of Traumatic Stress, 21, 492-496. doi: 10.1002/jts.20361
PTG(外傷後成長)とPTSD症状の間の曲線的関係について検討している論文を今もう一度整理していて,そんな中でたまたまみつけた論文がこれ.少し前に,同じJournal of Traumatic Stressに2009年に発表されたKleim & Ehlersの論文をレビューしたけれど,なんとその1年前にLevineらが両者の逆U字関係についてこの論文を出していた!Kleim & Ehlersの論文はいまだに注目を浴びているのに,なぜ見落としていたんだろう.サンプル数も多いのに不思議だ.タイトルかもしれない.Kleim & Ehlersの論文はタイトルに「曲線関係」が入っていたから.でも今回この論文を読んでみて,おもしろい特徴がいくつかあることに気づいた.この論文はPTGIのヘブライ語版を使っていて,PTGIの探索的因子分析を載せている.しかも調査対象は,日本における中学生から高校1年生くらいまでの男女.思春期を対象にした研究はあまり多くないからとても参考になる.
Fischer (2006)
Fischer, P. C. (2006). The link between posttraumatic growth and forgiveness: An intuitive truth. In Calhoun, L. G., & Tedeschi, R. G. (Eds.), Handbook of posttraumatic growth: Research and practice (pp.311-333). Mahwah, NJ: Lawrence Erlbaum Associates.
PTG研究をしていると,PTGという経験がその後の何に役立つのかという問いがつきまとう.PTGを経験することで,何かの疾病を予防できるのか,症状の進行を遅らせることができるのか,問題行動と呼ばれるような行動を制御できたり,向社会的行動のような望ましい行動をより促進できたりするのか.カルホーンとテデスキがまとめたPTGに関するハンドブックの第16章で,Fischerは,ゆるしとPTGについて論じている.ここで述べられている内容は,2002年に,APA (American Psychological Association) という学会で,テロの後のPTGについてDr. テデスキがメインでシンポジウムが開かれたときに彼女が発表した内容がもとになっている.その頃私は,そんなシンポジウムが開かれていることなど全く知らず,名古屋大学博士後期過程の学生で,PTGの考えやエリクソンの標準的危機の考え方なんかについて名古屋大学の紀要に論文を書いて,これから学位論文をどうまとめようなどと模索していた.
Kleim & Ehlers (2009)
Kleim, B., & Ehlers, A. (2009). Evidence for a Curvilinear Relationship Between Posttraumatic Growth and Posttrauma Depression and PTSD in Assault Survivors. Journal of Traumatic Stress, 22, 45-52. doi: 10.1002/jts.20378
PTG(外傷後成長)とPTSD症状の関係は2012年の今でもまだ議論が続いている.PTGは「危機的な出来事や困難な経験との精神的なもがき・闘いの結果生ずる,ポジティブな心理的変容の体験」と定義されているので,ネガティブな変化であるPTSD症状とは負の相関が見られるはずだと考えられていた.けれども,実際にデータを取ってみると,両者の間に負の相関をはっきりとみとめた論文はほとんどなくて,多くの論文が,弱~中程度の正の相関という結果だった.そこで,研究者たちが,そもそも両者は曲線関係にあると考えるほうが自然なんじゃないかなどと言い始めた頃,それを前面に押し出した論文がJournal of Traumatic Stress (JoTS)から続々と発表された.これがその二番目の論文にあたる.これ以後,私が覚えてる範囲で少なくとも4本は同じJoTSから曲線関係にまつわる論文が発表されている. 続きを読む…