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Osei-Bonsu, Weaver, Eisen, & Vander Wal (2012)

10月 30, 2013

Osei-Bonsu, P. E., Weaver, T. L., Eisen, S. V., & Vander Wal, J. S. (2012). Posttraumatic Growth Inventory: Factor structure in the context of DSM-IV traumatic events. International Scholarly Research Network ISRN Psychiatry, Volume 2012, Article ID 937582. doi: 10.5402/2012/937582

最近の,PTGI(心的外傷後成長尺度)を用いた研究の傾向は,21項目の合計点(0-105)を使ってPTGをひとくくりにするのではなく,下位尺度つまり5つの領域ごとに,そのメカニズムをより詳細にみていこうというものだと思う.例えば,大学受験や資格試験への失敗といった,自分の関与が大きい出来事からは,「人間としての強さ」や「新たな可能性」に関するPTGが報告される傾向が高い.一方で,命や体に直接関係するような出来事からは,「人生に対する感謝」にまつわるPTGが報告される傾向が高い.そして,苦悩を伴う出来事を経験して,「自分には強い面があると思うようになった」との実感に代表される成長と「これまで当たり前だと思っていた日常のささいなことにも感謝するようになった」という成長は,本来性質が違うものだと言える.なので,PTGI21項目の合計点を従属変数にすえた研究をするということは,こういったいろいろな性質を持つPTGを全部ひっくるめてとらえることになるので,合計点はキープするとしても,下位尺度得点も見ていこうという考えが主流だと思う.そんななかで,この論文が発表された.この論文は一言で言うと,いろいろデータを分析した結果,因子構造はどれもしっくりこないので,合計点を使うのがいいのではないでしょうか,そしてそれが嫌ならばPTGIを改良して,ちゃんとそれぞれの因子に同じ項目数が行き渡るようにしてくださいというものだ.

  • 論文の背景と目的: PTGIの因子構造にはまだ検討の余地が残されている.1996年にTedeschi & Calhounが最初に発表した際には5因子構造だったし,Takuらが2008年に発表した論文でも5因子が確認されているけれど,そのうちの二つの下位尺度は非常に項目数が少ない(「人生に対する感謝」は3項目,「精神性的な変容」は2項目)ので,そういう場合には因子構造が不安定になる傾向がある.また,3因子構造を主張している論文もあれば,高次1因子を示唆している論文もある.しかも,「心的外傷後成長尺度」と呼ぶからには,少なくともDSM-IVで定義されている「真の」トラウマと呼べる出来事を経験した人のみを対象と限定して因子構造を検討するべきだろう.Tedeschi&Calhoun(1996)にしろ,Taku.et.al(2008)にしろ,サンプルはDSM-IVで定義されている出来事のみならず,一般的に見て「大変にストレス」だといえるような出来事も含んでしまっている(例えば大学受験の失敗,失恋,両親の離婚).そこで,本研究では,DSM-IVの基準Aに合致する狭義のトラウマを経験した人のみを対象として,PTGIの因子構造を検討したい.
  • 方法:1401人の大学生がPosttraumatic Diagnostic Scaleを用いたスクリーニングにかけられ,372人の大学生が基準を満たした(男子106名,女子266名).このうち約過半数(55.4%)の人が,2つ以上のトラウマを経験していた.
  • 結果:最初に,オリジナルの5因子構造にもとづいて確認的因子分析を行った.その結果はGFIが.77と,適合度は決してよくなかった.ちなみに修正指数をチェックしたところほとんどの項目で修正が必要という結果であった.そこで,ランダムに半分のサンプルを抽出して,もっともしっくりくる因子構造を探るために,探索的因子構造(プロマックス回転)を行った.固有値1以上という基準を採用すると8因子が抽出された(このうち5つはオリジナルと同一).因子数が多いため,複数の因子で2項目しかない(ある因子は1項目のみ)など問題があったので,スクリープロットを参照して,1因子構造と3因子構造も可能性としてはあるだろうということになった.そこで,それらの因指数を指定して,探索的因子分析及び確認的因子分析をしてみた.その結果,どれもこれもぴったりするものはなかった.
  • 考察:結局,いろいろ言ったところで,PTGIの下位尺度相関は高い.全体の内的整合性も高い.それならば,不安定な下位尺度を採用するよりは,合計得点を用いるというのでいいのではないだろうか.で,もし,Taku.et.al(2008)をはじめ,オリジナルの著者らが5因子構造を主張するならば,それぞれの因子が同じ項目数になるようにPTGIを改定するべきではなかろうか.

というわけで,私たちが2008年に発表した論文の欠点を補ってくれた論文だと言える(たぶん,これが理由で,Dr. Rich Tedeschiがこの論文を私に送ってくれたんじゃないかな).そして今まさに私たちはこの仕事にとりかかっている.つまり,PTGIの中でも最も項目数が少ない下位尺度「精神性的変容」の今の項目を残した上で,新たな項目を加えてデータを取っている.日本語版はすでにデータも取り終わって,これからまさに因子分析に入るところ.英語版はUNCCharlotteで今皆が取っている最中(男子の人数が少ないから,データを取る期間を延長するとの連絡が入ったばかり).ちなみに,もしもPTGI-Jを使っている研究者の方で,この新しい精神性的変容の追加項目に興味のある方がいらっしゃったらどうぞ私までメールください.項目をお送りします.

ちなみに,このOsei-Bonsuらの論文の問題点を挙げるとするならば,DSM-IVで定義されているトラウマを経験した人のみをサンプルに選んでいるというわりに,Posttraumatic Diagnostic Scaleの得点が低いので,サンプルの中には,狭義のトラウマとは必ずしも言えない出来事を経験した人が入り混じっている可能性がある.さらに,出来事から5年以上経験した人が25%もいるので,そういった人たちと,6ヶ月以内に出来事を経験している人たちを混ぜている点も問題点がないとは言えない.そして一番の問題点はなぜだからPTGI得点がこれまでの研究と比べてずいぶんと低い.それがどうしてなのかがわからない以上なんとも言えないけれど,それが彼らの因子分析結果に影響している可能性は大いにある.

ここ最近立て続けにおもしろい論文がどんどん届いているので,次はあまり間隔をあけずにブログの更新ができるといいなと思う.

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