Taku (2014)
「悲しみから人が成長するとき:PTG (Posttraumatic Growth)」を,2014年3月31日,風間書房から出版させていただきました.
― 「はじめに」から一部抜粋 -
PTGとは苦しみをきっかけとして経験される人間としての成長,たったこれだけのことなのですが,それがどんなふうにして起きるのか,何がきっかけになってもたらされるのかなど,たくさんの疑問があります.
私は,人は,「なぜこんな思いをしてまで自分は生きていなければならないのか」,「やっと寝たと思ったら,悪夢を見て目が覚める」,「なぜあの時そうしなかったのか」,そして「なぜあの時ああしたのか」.気持ちの持って行き場がなく,後悔と絶望しかないと思うほどに,つらく苦しい経験をしてなお精神的な成長をとげることがある,ということに魅了され,2000年からこのテーマで心理学の研究をはじめました.
その研究の一部をまとめたのが『外傷後成長に関する研究(風間書房)』という本です.その本は,2005年に名古屋大学に「博士論文」として提出した研究の成果を土台としています.そのため,主に大学の先生や心理学を専攻している学生の方々を読者として念頭に置いた内容となっています.ですから,心理学の専門用語や,数字がたくさん並んだ統計の結果などが入っていて,一般の人に,「どうぞちょっと手に取って読んでみていただけませんか」とは,なかなかお勧めしにくい本となっています.そこで,これまでの研究成果を,もっと気楽に読んでいただけるような本があればと思い,この本を書くことにしました.
本書は全部で8章からなります.
- 第1章では「PTG」の背景を,
- 第2章では「PTG」の具体的な内容を,
- 第3章では「PTG」のきっかけを,
- 第4章では「PTG」を手助けするためにどんなことができるかを,
- 第5章では「PTG」の実感にとってさまたげとなるものを,
- 第6章では「PTG」が思春期にみられる場合の実際の語りを,
- 第7章では,東日本大震災をきっかけとした「PTG」に関するアンケート調査の結果を,そして
- 第8章では「PTG」のその後と,気に留めておくべきことをまとめています.
人間としての成長とはどういうことなんだろう,そのために私たちにどんなことができるんだろう,といったことを考えるにあたり,この本がたたき台になればと思います.
そして,今まさに苦しみの中にあり,生きる気力をかろうじて保っているような人にとって,PTGは遠い目標ではなく,すでにそこにあるもので,ただそれに名前がついているだけのことだということが伝わればと切に願います.
ただし名前がつけられたことで,PTGを,病院や福祉,心理臨床,教育,企業,家庭など,日常のいろいろな場面にうまくいかすために,日々研究したり,実践に取り入れたりしている人が徐々に増えてきました.私もその一人として,この本を執筆しました.何かを考えたり,振り返ったりするきっかけになれば幸いです.
以上,「はじめに」より