ホーム > PTGの文献・出版物 > Shakespeare-Finch & Lurie-Beck (2014)

Shakespeare-Finch & Lurie-Beck (2014)

4月 21, 2014

Shakespeare-Finch, J., & Lurie-Beck, J. (2014). A meta-analytic clarification of the relationship between posttraumatic growth and symptoms of posttraumatic distress. Journal of Anxiety Disorders, 28, 223-229. doi: 10.1016/j.janxdis.2013.10.005

ここ数週間ほど,PTGとPTSD症状の関係を明らかにしたくて取り組んでいるデータの分析が行き詰っていて,どうにもこうにも前に進まないので,基本に立ち返る意味で,この新しく出たばかりの論文を読んだ.PTGに関する論文でメタ分析に取り組んだものは数が少ないので,この論文は貴重な一本だ.これまでは,メタ分析を引用する際,この領域の研究者はほとんど皆,Helgesonら(2006)一本に頼っていた.というのも,それくらいしかなかったからだけれど,それはもう結構古くなりつつあるし,しかもそこでは,両者の間に仮定される曲線関係について,「曲線関係を示唆している論文が2本あるので,今後はその可能性も検討していく必要があるだろう」みたいに,ちょっと触れられているだけだった.けれども,今回,オーストラリアのPTG研究者であるDr. Shakespeare-Finchの辛抱強い研究のおかげで,この論文が表に出て,私たちPTG研究者にとっては,とてもありがたい.私たちの日本人を対象とした論文も,この中に分析対象として組み込まれている.

  • 問 題と目的:トラウマをきっかけとして体験されるPTG(ポジティブな方向の変化)とPTSD症状(ネガティブな方向の変化)の関係については,1990年代半ばから多くの研究が蓄積されてきたものの,その結果はまちまちであり,まだ分かっていないことが多くある.したがって,本研究では,PTGとPTSDの関係を扱っている42の論文を対象として,メタ分析を行い,PTGとPTSD症状の関係について明らかにすることを目的とした.さらに,きっかけとして取り上げられているトラウマの種類と,被調査者の年齢が及ぼす緩和効果(調節変数としての役割)についても検討した.
  • 方法:PTGの研究の中から,PTGとPTSDの関係を取り上げている42の論文(合計のべ11469名の対象者)を分析対象とした.42の論文のうち,17歳以下の子どもを対象としたものは2本だけで,残りはすべて17歳以上(大学生以上)が対象となっている.
  • 結果:メタ分析の結果から,PTGとPTSDの間には,正の直線的相関関係(r = .315)が見出されたが,それよりさらに有意に強い関係として逆U字型の曲線関係(r = .372)が見出された.これらの相関関係の強さや線形ー曲線形のどちらが強いかに関しては,トラウマの種類と被調査者の年齢が影響を及ぼしていた.
  • 考察:本研究の結果から,トラウマを経験せざるを得なかった人と臨床の場で仕事をしている者は,あらためて,PTGとPTSD症状が共存する(両者が一次元上の真逆に位置するわけではない)ことを肝に銘じておく必要がある.PTSD症状のみに焦点をあてることは,回復を遅らせ,PTGの可能性にふたをしてしまうことにつながりかねないことに留意する必要がある.また,PTGとPTSDの関係を直線的なものだと想定しないで,曲線関係にある可能性を常に考慮に入れることが必要だろう.

メタ分析の論文なので,何か新しい大発見が発表されたわけではないけれど,結局,彼女たちが考察のところで,「PTGとPTSD症状との間の関係は,直線関係を想定した場合にも,曲線関係を想定した場合にも,統計的に有意であることは間違いないが,絶対値としては決して大きくない.つまり,両者に強い関係は見られない.したがって,全然別の要因がPTGとPTSD症状に影響を及ぼしている可能性が高い」と言っていることがすべてなんだと思う.

つまり,PTGとPTSDは別のもの.トラウマなくして起こりえないという点のみ両者は共通しているけれど,それ以外のほぼすべてで違うと言っていいんだと思う.PTSD症状を引き起こす可能性があると指摘されてきた多くの要因と,PTGにつながると指摘されてきた多くの要因は,かりに重複する点があったとしても,別個のものだと考えた方が筋が通るということだと思う.例えば,短期間に多くのストレスに遭遇した場合,一難去ってまた一難というように,これでもかというほどつらい出来事が降りかかってきたような場合には,この出来事の「数」はPTSD症状を予測する.けれども「数」はPTGを予測しない.

同様に,PTSD症状を緩和するための要因が,PTGをもたらすとは限らない.また,PTGを妨げる可能性があると指摘されてきた要因が,PTSDを必ずしも悪化させるわけではないと考えていいんだと思う.もちろん,重複している部分が全くないと考えるのはあまりにも不自然だし,そんなふうに言い切ってしまうと,PTSD症状の緩和を主目標に掲げる臨床の場で,PTGが無用のものになってしまう可能性がある.けれど,PTGの研究が「PTSD症状の緩和」にどう貢献できるのだろうかという部分で向き合おうとすると,行き詰るのは当たり前だと思う.ここをクリアしないと,PTSD研究者とPTG研究者では会話が成立しないかもしれない.

私がデータの分析で行き詰っていたのは,両者を同一のモデルで説明できないかと粘っていたからだと思う.別個のモデルにした場合と同一のモデルにした場合を比べて,どちらの方がデータのあてはまりがいいかみたいな分析ってできるのかな.明日またやってみよう.

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。