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Ickovics, Meade, Kershaw, Milam, Lewis, & Ethier (2006)

3月 9, 2013

Ickovics, J. R., Meade, C. S., Kershaw, T. S., Milam, S., Lewis, J. B., & Ethier, K. A. (2006). Urban teens: Trauma, posttraumatic growth, and emotional distress among female adolescents. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 74, 841-850. doi: 10.1037/0022-006X.74.5.841

PTGの論文は大人が対象となっているものが多い.今,私の研究室では,日米の高校生を対象にPTG の心理教育プログラムを開発してその効果研究をしているので,高校生が対象となっているPTG論文はとても貴重な資料となる.Ickovicsらのこの論文は,高校生が対象になっているというだけでなく,他にもいくつかの点でとても興味深い.例えば,縦断研究であること,出来事が起きたタイミングによって分析していること,PTGIを高校生に分かりやすく変えていることなどだ.でもそんななかでも一番私が興味を持ったのは,PTGのきっかけとなる出来事の聞き方だ.

例えば,がん患者が対象となっている論文では,がんという診断を受ける前と今のように区切ることが多いし,ハリケーン等の被災者が対象となっている論文では,ハリケーンの前後と区切るため,出来事を研究者が定義できることが多い.けれども,そういった特定のグループではなく,一般の人が対象となる場合には,PTGのきっかけとなる出来事をまず最初に特定してもらうことがどうしても必要となる.一番多い方法は,ストレス度が高いと考えられる出来事をリストにして提示し,過去5年間(ないしは3年間,あるいは10年間)にそのどれかを経験したかどうか,経験した場合には,それはどの程度ストレスだったかを聞くというアプローチである.Ickovicsらはそうではなくて,自由回答を用い,参加者に対して,「What’s the hardest thing did you ever have to deal with?」と聞いている.日本語に訳すなら,「これまでで,一番大変だった出来事は何ですか?自由に書いてください」のような感じだと思う.この問いは,「これまでで,一番つらかった出来事は何ですか?」や「これまでで,一番ストレスだった出来事は何ですか?」とは決定的に異なる.例えば,ある人はこれまでで一番「大変」だったのは妊娠出産,「つらかった」のは家族の死,「ストレス」だったのは自分自身の病気の治療などと違うことをイメージするかもしれない(もちろん人によってはすべてが同じということもあるだろうけれど).そしてこのことは彼らの結果にも反映されている.私たちも今,PTGのきっかけとなる出来事は必ずしもトラウマやストレス度が高いものに限らないけれども出来事の性質によってその後のプロセスが違うということを分析しているけれど,このIckovicsらの研究はきっかけとなる出来事をどうみるかという意味で,とても興味深く,参考になる.

  • 方法-女子高校生を対象に縦断調査とインタビュー.PTGIを少し修正したものを用いている.それ以外に,情緒的苦痛を測定するためのBrief Symptom Inventory (BSI)も用いている.
  • 結果-上述のような聞き方をした結果,これまでで一番大変だったこととしてあげられたのは,妊娠及び母親になることであった.次が愛する人の死,次が人間関係に関することであった.出来事のタイプによってPTGには差がみられ,妊娠・出産を経験した人及び死別を経験した人のPTGが最も高かった.PTGの5領域を比べると,人生に対する感謝という下位尺度が最も高く,続いて,人間としての強さであった.でもこのプロフィールはきっかけとなった出来事が何であったかによって多少異なっていた.縦断研究の結果,PTGを高く経験していた人は,時間と共に苦痛も減少していたけれど,PTGが低得点であった人たちは,出来事直後の苦痛の度合いがかなり高かったため,この両者の交互作用が有意という結果であった.

私自身の研究では,高校生を対象にPTGIを取った際,「これまでで大変だった,もしくはつらかった出来事は何ですか」と聞いたうえで,ストレスが高いであろう出来事(事故,病気,家族のこと,勉強のことなど)をリストにして提示し,この中にあれば全部チェックしてください.なければ括弧の中に書いてください,のような聞き方をした.その結果,多くの高校生が,「高校受験」を挙げた.それを見るにつれ,高校受験のような出来事は,日本の15歳,16歳,17歳の人たちにとって,本当に大変なことなんだなと思う一方で,それをきっかけにしたPTGとなると,その得点は他の出来事と比べてはるかに低い.大変な高校受験を経験しても,PTGで測定しているような「人生への感謝」とか「他者との関係」で成長が期待できず,わずかに「新たな可能性」でやや成長がみられるだけというのは,このストレスの特殊性をあらわしているような気がする.受験の失敗や浪人という出来事は日本に特有の何かもあるんだろうから,そこに焦点を当ててぜひ分析してみたい.そうだとすると,受験の失敗や浪人は,DSMで規定されているようなトラウマとは呼べないから,ストレス関係のジャーナルになるのかな.あるいは青年期かな.教育心理学かな.

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