PTG & Resilience
この冬休み,何かと「PTGとレジリエンス」に関して考えることが多かったので,2015年はこの話題からスタートしたい.両者の関係に関して,数年前のTEDトークを思い出したので,久しぶりにまた見てみた.それは,ジェイン・マックゴニガルという女性によるトークで,2012年にこのトークがオンエアされた直後は,「TEDトークの中にPTGが出てたよ」と同僚や友達からメールをもらったことを覚えている.ちょうど2012年の夏,私たちの研究グループはフロリダのオーランドでAPA(アメリカ心理学会)に出ていたので,そこに来ていた他のPTG研究者たちとも,「あれ見た?」と話しては,彼女のトークの内容についてあれやこれやと話し合ったものである.トークのタイトルは「ゲームで10年長生きしましょう」というもので,PTGは11分くらいのところに出てくる.さて,私は,両者つまりPTGとレジリエンスには重複している部分がありつつも根本は異なると考えている.例えば2014年に発表した論文で,PTGとレジリエンスとバーンアウトの関係について論じたけれど,そこでは,「もともと特性としてレジリエンスが高い人 は,PTGの有無に関係なくバーンアウトしずらいけれども,レジリエンスがそう高くない人の場合においてのみ,PTGを経験し自覚することで,バーンアウトが抑制 される」という知見を発表した.つまり,レジリエンスは個人的な特性なので,もともと高い人もいれば低い人もいる.だからと言って生まれつきなのでどうしようもないというわけではもちろんなく,何かを経験した後にレジリエンスがより高くなる人もいれば変わらない人もいる.で,特性ではあっても,徐々にレジリエントになっていくという道筋は充分にありえるので,プロセスとしてみることも可能である.一方,PTGは「ポストトラウマティック(心的外傷を引き起こすような大きな出来事を経験した後)」に起きる成長なので,生まれつき高いとか低いとかはない.トラウマないしは何か自分が信じてきたことを問い直さざるを得ないような大きな出来事を経験せずにすんでいる人にもあまり関係ない.そういう意味でレジリエンスよりも適用の可能性が限定的で狭い.
このTEDトークで,ジェインも,「PTGのようなこと,つまり成長の利点を,トラウマなしに経験できたらもっといいだろう」と問いかけ,レジリエンスを高めるいくつかの提案をしている.例えば身体を動かすこととか,前向きなことや心が明るくなるような楽しいことを考えるとか.で,私はこういうのをみると,いつもPTGの研究を始めようと思うきっかけになった,自分の名古屋大学時代を思い出す.私は名古屋大学に行く前,千葉大学で修士論文としてストレスコーピングや充実感について研究をしていて,さんざん調査した研究の結論は,「積極的コーピングやソーシャルサポートをうまく使える人はストレス反応が低く,充実感が高い」というものだった.でも,名古屋大学時代,目の前に座っていらっしゃるクライエントさんにその結果を言ってどうなるってものでもないと思っていた.自分自身も決して褒められた生活を送っていたわけではなく,こういう研究の結果を知っていてなお,ストレス反応は自覚できるほど高く,そういう対処は自分にはなかなかできないよなあと思っていた.折れてしまわない心を育てるという意味でレジリエンスの研究の重要性は言うまでもない.でも,「肩の力を抜いて,もしできそうなら少し楽観的にものごとを見るようにして,周りにいる人たちと助け合ったりしながら,時にはちょっと冗談とかも言って,身体をよく動かして,少しずつ前向きに,自分のできることから徐々に…」というのがしっくりこない人たちがいると常々思っている.それは自分にもちょっとそういう面があるからかもしれない.で,そういう人たちに,それでも成長はあるよ,という気持ちがあって,PTG研究をしている面が強い.
これからも,レジリエンスのストーリーにのってこない人をPTGの枠組みで,PTGのストーリーにのってこない人をレジリエンスの枠組みで,互いに補いつつ,両者が発展していくといいなと思う.
私ごとだけれど,今年で,渡米して10年になる.1995年に神戸大学を卒業して10年間日本で学び2005年に博士号を取得し,その直後にアメリカに来たので,今年2015年で10年.最初の10年間で心理学研究の基礎を学び臨床実践のトレーニングを受け,次の10年間はPTG研究に捧げたので,これからの10年は新しいことにチャレンジしていきたい.
本年もどうぞよろしくお願いします.