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Johnson et al. (2009)

6月 19, 2017

Johnson, R. J., Canetti, D., Palmieri, P. A., Galea, S., Varley, J., & Hobfoll, S. E. (2009). A prospective study of risk and resilience factors associated with posttraumatic stress symptoms and depression symptoms among Jews and Arabs exposed to repeated acts of terrorism in Israel. Psychological Trauma: Theory, Research, Practice, and Policy, 1, 291-311. doi: 10.1037/a0017586

ああいうことがあったけれど,「私はお父さんとお母さんの子どもで本当によかった」,「日本人に生まれて心底よかった」,「この先生でよかった」などと感じるとき,その「よかった」はどういう意味だろうか.PTGで言うところの『人生に対する感謝』のようなものだととらえてよいのだろうか.では,こういうことがあって,「私はああいうお父さんとお母さんの子どもじゃなくてよかった」,「私はxx人に生まれなくて心底よかった」,「あっちの先生じゃなくてよかった」と感じたら,その「よかった」はどういう意味になるのだろうか.自分が所属する集団を好ましく認知し,外集団を批判したり排斥したりするそれを,エスノセントリズムの観点から検討し,PTGはむしろそれを招く,したがってPTGは有害な場合がある,と結論づけた研究が今日レビューする論文だ.多様性を認め,(自国から見た)歴史的背景を学び,さまざまな差別があることを知った上で,国全体に影響を及ぼすような大きな自然災害の後などに,「それでもやはり,日本に生まれて本当によかった」,「これからの日本の未来は日本人が決めるべき」,「外国人も日本に住んでいるなら,郷に入れば郷に従えで日本のルールに従うべきで,嫌なら出て行けばいい」と感じたら,それはマズイのだろうか.「ヘイト」にさえつながらなければ,意味云々は人それぞれで良いのだから,追究する必要はないのだろうか.Jonathan Haidtの『The righteous mind: Why good people are divided by politics and religion 』,もう一度,アメリカに帰ったら読んでみようかな.

  • 問題の所在:イスラエルでは,バスやレストランなど公共施設で自爆テロが相次ぎ,人々は非常にストレスフルな毎日を送っている.そういったトラウマを引き起こすような状況における人の心理を説明するために,(本論文の共著者でもある)Hobfollらがこれまでに構築してきた「資源保存(Conservation of Resources: COR)」理論を適用する.この理論によると,人は自分にとって価値ある資源を獲得するため,また既に持っている資源を守り抜き,保持するため,そして資源を増やすために生を営んでいる.したがってこれらの資源(家や,土地,仕事だけでなく,目に見えない資源,例えばソーシャルサポートや自尊感情など)がトラウマによって失われると,人はPTSD症状を呈し,うつなどの症状を招きやすい状態となる.逆に,資源を獲得することは,精神的健康につながる.しかし,資源の獲得をPTGだと概念化するのであれば,テロの場合,実質的な資源の獲得はほとんどないはずである.テロは個人に向けられた攻撃ではないので,一人ひとりにできることは限りがあり,出来事の意味づけも難しい.それなのに,こういった状況でもなおPTGをもし認知するようなことがあったとしたら,それは防衛的な認知再解釈にすぎず,究極的にはむしろマイナスの影響しか及ぼさないのではなかろうか.「存在脅威管理理論(Terror Management Theory: TMT)」でもそれは実証されている.人は命の有限性など非常にストレスがかかるような状況に遭遇すると,外集団を排斥し,内集団の他者と親密になることによって,自らを守ろうとするではないか.したがって,PTGが例としてあげているような「他者とより親密になること」は,精神的健康につながるようなポジティブな変化ではないかもしれない.
  • 目的:本論文では,縦断研究を用いて,テロに曝されることが,資源の増減を予測し,資源の増減がPTSD症状や抑うつを予測し,それがさらにPTG及びエスノセントリズム,政府の過激な暴力行為を支持するような態度につながると仮定して,そのモデルを多母集団同時分析によって検討する.
  • 調査対象者:18歳以上の成人に,二度,電話インタビューを行った.一度目は2004年の8月から9月.二度目は2005年の2月から4月であった.1511名が一度目のインタビューに参加したが,約半数が二度目のインタビューには参加しなかった.二度のインタビューに参加した560名のユダヤ系,182名のアラブ系の男女が本論文の調査対象者である.
  • 尺度:以下,大きく8種類の変数を問うた.
    • 年齢と性別
    • 2000年以後,テロにどのくらい曝されたか(攻撃に自ら巻き込まれたことがあるか,家族や友人がテロの犠牲になったか,など4項目)
    • 経済的な資源の損失(3項目)と心理社会的な資源の損失(7項目)
    • PTG:「大切な人が亡くなった時,遺された家族がより団結することがあります.過去3ヶ月の間に,以下6つの内容についてどの程度増えたか教えてください」という教示に引き続いて,6つの内容が提示された.それは「希望」,「自信」,「人生に目的があるという感覚」,「家族との親密感」,「少なくとも一人の人とより親密になったという感覚」,そして「友人との親密感」であった.
    • ソーシャルサポートの満足度(3項目)
    • PTSD症状(17項目)と抑うつ症状(5項目)
    • 政府が政治的暴力を加えることを支持するかどうか(「私達の国のこの政治状況の悪さを考えると,一般市民に対する武力行使も理解できる」など3項目)
    • エスノセントリズム(「法律で許可されて働いている外国人であっても,他のイスラエル人と同じような権利を平等に認められるべきではない」など4項目)
  • 結果:群間比較や相関係数の吟味,モデルの適合度の検討などを行った.
    • ユダヤ系とアラブ系を比較して有意差が認められた変数は多い.PTG,PTSD,抑うつ,暴力への支持,エスノセントリズムは全て,二時点ともに,アラブ系の人の方が高かった.逆にユダヤ系の人は,年齢,テロに曝された度合いが二時点ともに高かった.
    • 変数間の関係を描いたモデルの適合度を検討した結果,テロに曝された度合いが初回調査におけるPTGを予測し,それが第二回調査時のPTGを予測していた.また,テロに曝された度合いは,COR理論の仮説どおり,資源の喪失を招き,それが症状を引き起こし,暴力行為を支持する態度やエスノセントリズムにつながっていた.さらに,初回調査時におけるPTGが,第二回目の調査時点における暴力行為の支持を予測していた.
  • 考察
    • 本研究は継続中のテロに曝されている一般の人を対象としたおそらく初めての大規模な縦断研究である.本研究の結果,PTGは先行研究に反して,PTSS症状にも抑うつ症状にも有意な因果関係を示さなかった.しかし,政府が政治的暴力を加えることを支持するという態度には正の因果関係を示していた.したがって,テロをきっかけとしたPTGを考えた場合には,回復を助けてくれるようなPTGのポジティブな側面は見られず,むしろPTGのネガティブな側面,すなわち防衛的で自分に都合のいいように錯覚する幻の面が現れているようだ.これまでにも別の論文で主張してきているように,本物のPTGとはもっと奥深く,本当に稀なケースとしてとらえるべきなのだ.このように質問さえすれば誰でも答えれるようなレベルでの,認知面にのみ焦点を当てたPTGは表面的で,浅く,防衛的な部分を拾っているにすぎない.テロを経験して,恩恵やポジティブな変化なんていうものは,そうそうないのが当たり前なのに,「自信を得たか」とか「人生に目的があるという感覚が強くなったか」とか認知していることをもってPTGと呼ぶことに,果たして意味があるのだろうか.
    • 今後の検討課題は,そういうPTGを促進するようなことではなく,トラウマにあってもいかに資源を失わずにすむか,あるいは失ってしまった資源を取り戻すか,資源をどう守れるかなど,COR理論にのっとって予防法や介入法を考えるべきである.

PTG研究者同士で世間話をすると,Hobfollらの一連の研究が話題に上る(彼らはこの論文だけでなく,横断研究でも,PTGと暴力行為に対する支持の度合いについて述べているし,昨年の横浜で開かれたICPでもこのデータについて基調講演でプレゼンされていた).この論文で示されているような回帰係数が,(同じ変数同士の二時点での関連を除けば),ほぼ全部.20以下なので,(この値でここまで言うか)と,つい文句もこぼれるが,ここまではっきりPTG概念に挑戦してくるような論文はこちらにたくさん宿題をくれる.ひとまず,「xxで良かった.xxで感謝だ」と感じることの意味,浅ましさやエゴ,コーピングとしての効果,少なくとも「今,ここで」の気分は良くなること,けれども無意識に差別感情を育んでいる可能性,などをもっと研究に含めていきたいと思う.

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