Tedeschi & Calhoun (2006)
Tedeschi, R. G., & Calhoun, L. G. (2006). Expert companions: Posttraumatic growth in clinical practice. In Calhoun, L. G., & Tedeschi, R. G. (Eds.), Handbook of posttraumatic growth: Research and practice (pp.291-310). Mahwah, NJ: Lawrence Erlbaum Associates.
今週末,シカゴでPTGについて話をする機会をいただいたので,その準備を兼ねて,PTGをどう臨床場面や実際の生活の中でいかしていくことができるのかアイデアを練るためにこの本をもう一回読んでみた,この本はPTGのハンドブックというだけあって,PTGに関するいろいろな研究が網羅されていて,アメリカ,スイス,オーストラリアなどからのべ29人の研究者がさまざまな立場からPTGについて論じている.この中の第15章で,カルホーンとテデスキーが,彼らのキーワードの一つである「エキスパート・コンパニオン」という考え方を用いて,PTGの道案内をする人の役割をまとめている.
- エキスパート・コンパニオン:十分なトレーニングを積んだ専門家であり,耐え難い苦痛を経験した人(サバイバー)に寄り添い,PTGの道のりをともに歩む役割を有する臨床家のこと.PTGにまつわる小さなサインを見逃さず,PTGを強引に誘導せず,変化を柔軟に受け入れる姿勢が強調されている.
- 事例:本章には合計で5つの事例が出てくる.その中で私が興味をひかれたのは,PTGをあえて強調しすぎないように工夫している点(PTGが語られはじめた時にほどほどのところでおさえている点)と,隠喩を積極的に使っている点だ.例えば,この章の中では,あるつらい思いをした人がPTGについて語った際,「現像液につけたフィルムがきれいな写真になっていく」というたとえを使ったことが紹介されている.これ以外にも,木が生い茂るイメージのたとえなどが紹介されている.
私が最初にテデスキー先生に会ったのは2004年,カナダのバンクーバーで開かれた「International Network on Personal Meaning」という学会だった.当時,私は英語が全く分からなかったので,テデスキー先生の発表を聞いてはいたけれど,その内容はちんぷんかんぷんだった.けれども,今でもはっきり覚えているのは,テデスキー先生が,PTGの事例を紹介されるなかで,クライエントさんが描かれた絵を皆に見せたことだった.朽ちてしまった木に少しずつ色がもどり,鳥が近づいてくる様子を何枚もの絵を使って見せてくださった.
それから8年たち,今,PTG研究はその意義が問われている.この章でも,テデスキー先生たちが繰り返し,「臨床家はPTGを目的とした介入をしてはならない」と言っているように,PTGはねらってそこにたどりつくゴールのようなものではない.だからこそ,何のためにPTGを研究するのかを含めて,今本当にいろいろな議論がなされている.先日,共同研究者たちと一緒に,むこう10年でPTGに関して明らかにしたい研究上の問いをリストアップしたら,50近く出てきて,これは大変だと思った.その一つが,ここ数年議論が巻き起こっている,「PTGは本物か」という問いで,つい最近またそれに関して新しい論文が出たので,次はそれをレビューしようと思う.