Dibb (2009)
Dibb, B. (2009). Positive change with Meniere’s disease. British Journal of Health Psychology, 14, 613-624. doi: 10.1348/135910708X383598
イギリスの心理学者,Dr. Dibbの論文.PTGの研究では,Growthがおきるきっかけとなる出来事をどう特定するかが難しい.Post-traumatic Growthという名前の構成概念なので,Growthは当然トラウマの後に起きるものだと概念化されている.けれども,2004年のTedeschi&Calhounの論文をはじめとして,あちこちで,PTGは狭義のトラウマのみがきっかけとなって生じるものではなく,より広く何らかのストレスを伴うような出来事,いいにしろ悪いにしろ衝撃的な出来事など本当にいろいろな内容の出来事がきっかけとなり得ることが示されている.私が以前PTGI-Jを使った論文を投稿した際も,査読の中に,「PTGはトラウマから起きると概念化されているのに,長期にわたる介護の後の死別,いじめ,両親の離婚等「トラウマ」とは呼べないような出来事が含まれている.これはどういうことなのか説明するように」といったコメントがあった.Dr. Dibbによるこの論文では,比較的慢性のメニエール病と診断された300名あまりの人が対象となっていて,一過性でなくストレスがずっと続くような場合にもPTGが起き得るということが示されていて,しかも下位尺度別のPTGI平均得点が載っているので,とても参考になる.
- 尺度-PTGI.「他者との関係」「人間としての強さ」「新たな可能性」「人生に対する感謝」「精神性的(スピリチュアルな)変化」の5つの下位尺度ごとに得点化している.縦断研究で,10ヶ月という期間を経て2回,調査及び面接を行っている.
- 結果-領域別に検討した結果,この群で最も高得点だった領域は「人生に対する感謝」,引き続いて「他者との関係」「人間としての強さ」「新たな可能性」そして最も低かったのが「精神性的(スピリチュアルな)変化」だった.
私が興味をひかれたのは,「人生に対する感謝」の領域が最も高得点だったという点.私が日本人大学生を対象に調査をしたときは,遺族,つまり大切な人や家族,友人を失った人で,この領域の得点が最も高かった.そして次に高かったのが「他者との関係」で「新たな可能性」や「人間としての強さ」の領域の得点は低かった.「精神性的(スピリチュアルな)変化」に関しては,項目内容が日本人の精神性を必ずしも反映できていないという問題もあって,得点はほぼゼロに近いという結果だった.だからこうしてみると,なんとなく傾向が似てるかなと思う.少なくともアメリカ人を対象としたTedeschiらの論文と比べると,ずいぶん違う.
今年,2012年の8月に,フロリダ,オーランドで開かれたAPAで,Tedeschiらと「文化とPTG」に関するシンポジウムをしたときも,この「人間としての強さ」と「精神性的変化」が最も文化の影響を受けやすいという議論になった.PTGを領域別にみるというのは,成長の内容をどういう変化にみるかという問題と関係しているので,とても興味深い.次もまた領域別に検討している論文をレビューしよう.