Kleim & Ehlers (2009)
Kleim, B., & Ehlers, A. (2009). Evidence for a Curvilinear Relationship Between Posttraumatic Growth and Posttrauma Depression and PTSD in Assault Survivors. Journal of Traumatic Stress, 22, 45-52. doi: 10.1002/jts.20378
PTG(外傷後成長)とPTSD症状の関係は2012年の今でもまだ議論が続いている.PTGは「危機的な出来事や困難な経験との精神的なもがき・闘いの結果生ずる,ポジティブな心理的変容の体験」と定義されているので,ネガティブな変化であるPTSD症状とは負の相関が見られるはずだと考えられていた.けれども,実際にデータを取ってみると,両者の間に負の相関をはっきりとみとめた論文はほとんどなくて,多くの論文が,弱~中程度の正の相関という結果だった.そこで,研究者たちが,そもそも両者は曲線関係にあると考えるほうが自然なんじゃないかなどと言い始めた頃,それを前面に押し出した論文がJournal of Traumatic Stress (JoTS)から続々と発表された.これがその二番目の論文にあたる.これ以後,私が覚えてる範囲で少なくとも4本は同じJoTSから曲線関係にまつわる論文が発表されている.
- 方法-身体的な暴力を受けた成人(平均年齢は35歳あたり)が対象.この短い論文の中に二つの研究結果が発表されている.研究1では,調査対象者は,暴行を受けてから6ヶ月の時点で,PTGI及びBDI(ベック抑うつ尺度)など複数の尺度に回答している.研究2では,暴行を受けてから39ヶ月(3年ちょっと)の時点でPTSD症状を見るための構造化された臨床面接を受けている.
- 結果-PTGI合計得点を項目数で割った全体平均得点は1.59とかなり低め(得点範囲は0-4.64).5つのPTGの領域では,人生に対する感謝と人間としての強さの二つの下位尺度で比較的高得点という結果であった.PTGIとPTSD症状の間の単純相関はr = .43で,PTGIと抑うつ症状の間の単純相関はr = .35だったけれど,肝心の曲線関係のテストで,両者はまあまあきれいに逆U字型関連にあるという結果が得られていて,その部分が図でも示されていて,この論文の核になっている.
PTGとPTSD症状の関係を扱った論文で必ず引用されるこの論文.2009年に日本のJSTSSで「Posttraumatic Growth研究の臨床的意義と今後の発展に向けて」というシンポジウムを行った際,座長の飛鳥井先生がこの曲線関係について触れられた.ある論文で私は,重回帰分析の予測子にPTSD症状を測定するIES-R得点を入れて,結果変数にPTG得点を入れるという方法を用いて分析していたので,この曲線関係の可能性を聞いて,すごく刺激を受けたし,あれを別の方法で分析するとどうなるんだろうなどといろいろ一気に考えさせられたことを覚えている.
ただ,難しいなと思うのは,理論的には両者が曲線関係ということで理解できるし,先行研究でもぞくぞくと曲線を示す知見が出てくるんだけれど,いざ自分の手元にあるデータで曲線関係の可能性をテストしてみると,今のところあんまりきれいには出ない.というのも,PTSD症状を測定している時期にかなり影響されるはずで,比較的出来事からあまり時間がたってない時であれば,あまりにも出来事が大変すぎる場合(PTSD症状得点が高得点の場合)はPTGが経験されにくく,逆に,出来事の衝撃度が低い場合(PTSD症状得点が低得点)もPTGが経験されにくいので,結果として真ん中が高得点になるんだと思う.けれど,私が調査をするときには,出来事からかなり時間がたっていることのほうが多いので,それも一因かなと思う.
年末,日本でPTG研究の講演をいくつか行うので,その時にこの関係についても話せるように,ぜひ飛行機の中でもう少し論文を読んでおこう:)