ホーム > PTGの文献・出版物 > Tomich & Helgeson (2012)

Tomich & Helgeson (2012)

6月 23, 2013

Tomich, P. L., & Helgeson, V. S. (2012). Posttraumatic growth following cancer: Links to quality of life. Journal of Traumatic Stress, 25, 567-573. doi: 10.1002/jts.21738

PTGに関する研究が「研究のための研究」に陥る危険性と常に隣り合わせになっており,研究の意義が問われ続ける理由には,PTGそのものが介入の目標になりえないという点が挙げられる.それはDrs. Tedeschi & Calhounの論文の中でも繰り返し述べられているし,先のPTG&レジリエンス第3回研究会でも議論されたことである.この論文の著者もまた,アブストラクトを,「Clinicians should consider the notion that more growth may sometimes, but not always, be better」という一文で結んでいる.本研究は,がんの診断を受けた患者を対象に,PTGとQOL (Quality of Life)の関係を検討したものである.PTGの関連概念であるベネフィット・ファインディング(知覚された恩恵)を測定する尺度であるBenefit Finding Scaleを用いてこれまでに多くの論文を発表してきている二人の研究者が,この調査ではPTGIを用いているところが興味深い.ただし,PTGIをそのまま用いるのではなく,彼らなりに修正したものを使用している.このあたりも,先のPTG&レジリエンス第3回研究会で議論にのぼったように,尺度を対象・目的に応じてどんどん進化させてやるというアイデアのいい例になっている.

  • 研究の目的:PTGとQOLの関連を縦断データを用いて検討すること
  • 研究方法と対象:がんと新たに診断された36歳から82歳までの62名の患者(26名の男性と36名の女性)を対象に,診断から3ヵ月後(Time 1)とさらにその3ヵ月後(Time 2)の2回,御自宅かあるいは病院にて面接を実施した.面接において,一部修正したPTGI,QOLを測定するためのSF-36,抑うつ症状を測定するためのCES-D,がんという診断をうけた時の主観的なストレス度,侵入的思考を測定するためのIES-Rの下位尺度,そして対処方略を測定するためのCOPE尺度を実施した.
  • 修正したPTGIについて:PTGIのオリジナルは21項目だがすべての項目がプラスの方向への変化を示しているため,回答をお願いする患者の方のバイアスを防ぐため,ポジティブな変化とネガティブな変化の両方を含むよう適宜修正して26項目としたものを使用した.もともとの21項目のうち6項目は逆方向つまりネガティブな方向へと内容を修正した(例えば,「自分の感情を表に出しても良いと思えるようになってきた」という項目は「自分の感情は表に出さないほうが良いと思うようになってきた」のように修正).それに加えてさらに5項目新たにネガティブな項目を付け加え,全体として26項目とした(15項目がPTGIからの成長を示す項目で,11項目 がネガティブな変化を示す項目).この尺度をTime 1 とTime 2の両方で「がんと診断されたことからの」変化を測定するために実施した.ちなみに,回答形式もオリジナルのPTGIは0点から5点の6段階評定であるが,この研究では5段階に変更されている(回答形式も「あてはまらない」「あてはまる」などなので,オリジナルと異なる).
  • 研究の結果:Time 1のみの横断データを使った分析では,PTGとQOLの間に線の相関関係が見られ,PTGが高ければ高いほど逆にQOLが悪いという結果であった.しかしながら,Time 1での抑うつの症状とPTGの間には曲線関係が見られ,PTGが低い人及び高い人のほうが抑うつ症状が弱く,逆にPTGが中くらいの人に抑うつ症状が高いという結果であった.一方,縦断データで見てみると,Time 1 におけるPTGが Time 2における身体的な健康を有意に予測していた.つまり,がんの診断から3ヵ月後にPTGを経験していた人ほど,その3ヵ月後の身体的な健康度がよりよいという結果であった.
  • 研究の考察:これらの結果から,PTGがQOLや身体的健康に及ぼす影響は,これまで言われているように非常に複雑なものであり,PTGを経験したからといって,それがそのままQOLの向上に貢献するとは言えないことがわかった.ただし,縦断データからは,ある時点のPTGがその後の身体的健康の向上に貢献していることは示唆されたため,「More growth may sometimes, but not always, be better」つまり,いつもそうだとは言えないものの,PTGを高く報告することにはよい効果もありえることを臨床家は知っておくことが重要だと言える.

この論文の著者は,横断データでみると,PTGはQOLと必ずしもプラスの関係にないけれど,縦断データでみると,PTGがQOLの向上に貢献しているという結果から,PTGがプラスの効果を発揮しだすためにはある程度の時間が必要なのではないかと考察している.確かに,横断データでPTGとQOL(精神的健康度,身体的健康度)をみると,QOLの指標はその時うけたトラウマの衝撃度も反映しているため,衝撃が適度に強いとPTGが高く,衝撃がそこまで強くないかあるいは強すぎた場合にはPTGが起きにくいという仮説を支持するように思う.そのため,縦断でみてやることで,PTGの効果を時間軸にそって検討できるという利点がある.でも私はこの線で研究を続けて,最終的に「PTGの効果はある程度時間がたったところで顕在化する」という結果が得られたとしても,実際には何か別のきっかけがあって顕在化することになったのかという次なる問いに発展するだけなので,あまり生産性がないように思える.むしろ,私としては本人のPTGを原因変数として本人のQOLを結果変数とする個人内にとどまる変数ばかりをモデルにいれるのではなく,個人を超えた変数にPTGが影響を及ぼしえることを示すことが重要だと考える.この点においてPTGの研究意義がより発揮されると思う.

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。