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Cann et al. (2010)

1月 20, 2014

Cann, A., Calhoun, L. G., Tedeschi, R. G., Kilmer, R. P., Gil-Rivas, V., Vishnevsky, T., & Danhauer, S. C. (2010). The Core Beliefs Inventory: A brief measure of disruption in the assumptive world. Anxiety, Stress, & Coping, 23, 19-34. doi: 10.1080/10615800802573013

これは,テデスキ先生とカルホーン先生を含むノースカロライナ大学シャーロット校のPTG研究室メンバーの論文.PTGがどんなふうにして起きるのかを説明した理論モデルでは,出来事が起きるまでに自分が信じてきたたくさんのことが激しく揺さぶられ,自分の人生や人間関係などいろいろなことを問い直さざるを得ないような経験をすることが,PTGにとって大きな影響を与えると説明されている.この「自分が信じてきたことが揺さぶられる」という経験の,「揺さぶられ度合い」を測定することはとても難しく,議論は今も続いている.自分が信じてきたことそのものについて測定する尺度は,World Assumptions Questionnaire (WAQ)やWorld Assumptions Scale (WAS)をはじめとしていくつかあるけれど,そこに示されているような信念がどれくらい揺さぶられたか,問い直されたか,を問う尺度はこれまでなかった.なので,その一歩としてArnieが中心となって作成したのが,この「Core Beliefs Inventory(CBI:中核的信念尺度)」になる.この論文では,3つの調査を使って,CBIの信頼性及び妥当性を検討した結果がまとめられている.私たちは去年この尺度の日本語版を作り,データを取ったので,それを今年のAPAで発表する予定になっている.

  • 研究1は,大学生を含む成人181名を対象とした横断調査で,尺度全体の内的整合性のチェック,及びPTGI得点とCBI得点の関連を検討している.CBIはPTGIと同様に0から5点の6件法で問う.このサンプルの平均は3.03 (SD = 1.06).私たちの日本人大学生を対象とした調査では3.00よりは随分と低い値だったので,この違いが文化の影響によるものか出来事の影響か,はたまた項目内容や訳の問題か,考えるべき点はたくさんある.この研究では,仮説どおり,CBI得点はPTGI合計得点及び5つの下位尺度得点すべてと正の相関,さらに出来事のストレス度合いとも正の相関を示していた.重回帰分析でも,CBI得点は有意にPTGI得点を予測していた.ちなみに,この重回帰分析では出来事が生起した当時のストレス度合いも予測子の中に入っているが,それは有意な影響を与えていなかった.これについて著者らは,対象者のすべてが,「最もつらかった出来事」を思い出して回答しているため,ストレス度合いが全員とても高く,個人差があまりなかったためかもしれないと考察している.こういう問題は,この種の調査につきものだという感じがする.
  • 研究2は,横断研究と縦断研究の両方を含む.横断研究の方では,CBI得点とストレス反応(IES-Rで測定)及びウエルビーング(精神的健康-General Public-Clinical Outcomes in Routine Evaluation Scale: GP-COREで測定)との関連を検討している.CBI得点とIES-R得点とは仮説どおり正の相関を示していた.けれどもGP-CORE得点を従属変数とする重回帰分析ではCBI得点は有意に影響しておらず,IES-R得点のみが有意な予測子であった.これはつまり,精神的健康に影響を及ぼすのはその時点でのストレス反応であって,出来事によってどれくらい自分の信念が問いなされたかということは無関係だろうということ(つまり,CBIはPTGを予測するけれどWell-beingを予測しないということ)を示唆している.また,2ヶ月間のインターバルを挟む2時点の調査に協力した大学生85名を対象とした縦断調査の方では,出来事直後のCBI得点とIES-R得点が2ヶ月後のPTG及びウエルビーングをどの程度予測していたかを検討している.結果は,CBIのベータが.395, IES-Rのベータが.376と,仲良く同等に3ヵ月後のPTGI得点を予測していた.また,縦断データからはCBIの再検査信頼性も検討されている.結果はr = .69なのでまずまずというところか.
  • 研究3は,白血病患者70名を対象に,横断調査・縦断調査を行い,研究2で見出された結果が確認されるかを検討している.結果は研究2と全く同じ.横断データと縦断データの両方で,CBI得点はPTGIを有意に予測していた.

というわけで.PTGにとって,「自分がこれまでに信じてきたことをどれだけ問い直すことになったか」が,鍵であることがはっきり示された.この結果は,PTGの理論モデルの妥当性をついに数量的に示すことができたという点で意味があると思うし,類似概念であるStress-related growth (SRG)やBenefit Finding (BF)との違いについても議論を深めることができるという点で大きな貢献をしたと思う.

今,私たちは日本人を対象としたCBI得点とPTGI得点の関係についてデータを分析している.単相関だけみると,仮説どおり中程度の正の相関.だけれど,今,私たちが去年の暮れから奮闘しているのは,これまで多く発表されてきた「PTGI得点とIES-R得点の関係が逆U字関係だ」ということの根拠を説明するために,CBI得点を使えないかということで,毎日毎日データ分析中.

今年もどうぞよろしくお願いします.

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