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Su & Chen (in press)
Su Yi-Jen, & Chen Sue-Huei. (in press). Emerging posttraumatic growth: A prospective study with pre- and posttrauma psychological predictors. Psychological Trauma: Theory, Research, Practice, and Policy. doi: 10.1037/tra0000008
PTGについての研究で縦断的なデータを扱ったものは多くない.PTG(心的外傷後成長)という概念の特徴から,どうしても研究は後手にまわりがちだ.とは言っても縦断研究が全くないわけではないので,そんな中から,冬休み中に共同研究者から紹介された論文をレビューしたい.これは台湾の研究者によるもので,まず810名の大学生からデータを取り,その2ヵ月後にも参加した592名の中から,この期間内にトラウマを経験した110人をデータ分析の対象としている.この研究のウリは,トラウマを経験する以前の個人特性がPTGに及ぼす影響を縦断で見ることができた点にある.いくつか主要な結果があるけれど,私が最も大切だと思う結果は,パーソナリティの神経症傾向がPTGを予測しなかったという点だ.この「神経症傾向とPTGの間に負の相関がない」という知見は,PTG研究一番最初のTedeschi & Calhoun (1996)でも既に見出されている.これは,PTGとレジリエンスの質的な違いを示す重要な証拠だと思う. 続きを読む…
Cann et al. (2010)
Cann, A., Calhoun, L. G., Tedeschi, R. G., Kilmer, R. P., Gil-Rivas, V., Vishnevsky, T., & Danhauer, S. C. (2010). The Core Beliefs Inventory: A brief measure of disruption in the assumptive world. Anxiety, Stress, & Coping, 23, 19-34. doi: 10.1080/10615800802573013
これは,テデスキ先生とカルホーン先生を含むノースカロライナ大学シャーロット校のPTG研究室メンバーの論文.PTGがどんなふうにして起きるのかを説明した理論モデルでは,出来事が起きるまでに自分が信じてきたたくさんのことが激しく揺さぶられ,自分の人生や人間関係などいろいろなことを問い直さざるを得ないような経験をすることが,PTGにとって大きな影響を与えると説明されている.この「自分が信じてきたことが揺さぶられる」という経験の,「揺さぶられ度合い」を測定することはとても難しく,議論は今も続いている.自分が信じてきたことそのものについて測定する尺度は,World Assumptions Questionnaire (WAQ)やWorld Assumptions Scale (WAS)をはじめとしていくつかあるけれど,そこに示されているような信念がどれくらい揺さぶられたか,問い直されたか,を問う尺度はこれまでなかった.なので,その一歩としてArnieが中心となって作成したのが,この「Core Beliefs Inventory(CBI:中核的信念尺度)」になる.この論文では,3つの調査を使って,CBIの信頼性及び妥当性を検討した結果がまとめられている.私たちは去年この尺度の日本語版を作り,データを取ったので,それを今年のAPAで発表する予定になっている.
Groleau, Calhoun, Cann, & Tedeschi (in press)
Groleau, J. M., Calhoun, L. G., Cann, A., & Tedeschi, R. G. (in press). The role of centrality of events in posttraumatic distress and posttraumatic growth. Psychological Trauma: Theory, Research, Practice, and Policy. doi: 10.1037/a0028809
6月のPTG&レジリエンス研究会で得たさらなる収穫は,「記憶」特に「自伝的記憶」という研究領域とPTGの関連だと思う.日本に一時帰国する直前の5月頭にMPA (Midwestern Psychological Association)という学会がシカゴであり,研究室のメンバーと参加し,私たちも3つの研究成果を発表した.その時にオハイオ州のMiami Universityから大学院生が何人が参加していて,彼らが”event centrality(出来事の中心性)”とPTGの関連について発表していた.それまで,UNC Charlotteのテデスキー先生たちから,Event Centralityという概念が注目されていて,自分たちもある調査で導入したとは聞いていたけれど,実際に勉強したことがなかったので,そのMPAの発表はとても新鮮だった.そして日本に一時帰国し,PTG&レジリエンス研究会の場で自伝的推論が御専門の認知心理学の先生と出会い,さまざまな概念(自伝的記憶,自伝的推論,出来事の中心性,想起時点での自己,自己定義的記憶などなど)について勉強させてもらうなかで,私の頭の中も,これまでまったく考えたことがなかった方向からPTGを見るチャンスとなり,整理されつつあるような感じがした.そしたらいいタイミングで,テデスキー先生たちから,この論文が「アクセプトされた」と連絡がきた. 続きを読む…