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Hobfoll et al. (2007)

6月 12, 2014

Hobfoll, S. E., Hall, B. J., Daphna, C.-N., Galea, S., Johnson, R. J., & Palmieri, P. A. (2007). Refining our understanding of traumatic growth in the face of terrorism: Moving from meaning cognitions to doing what is meaningful. Applied Psychology: An International Review, 56, 345-366.

PTGは研究者魂を熱くしてくれる.このレビュー論文も挑戦的な内容で,端的に言うと,「その出来事に意味があったと認知面でとらえること」に重点を置いたPTGの考え方から「その出来事の結果意味ある行動を取れるようになること」に重点を置いたPTGへと考え方を変えるべきではなかろうかという提言である.これを彼らは「Action-focused growth(行動に焦点を当てた成長)」と呼んでいる.つまり,自分がある出来事をきっかけに人間として成長したと自覚しているかどうかよりも,実際にその結果何をしているかという現実の行動が大事であり,行動上の変化を伴ってこそ真の成長であるという主張である.

  • 問題意識の所在:我々としては,PTGは精神的健康にポジティブな影響をもたらすはずであり,もたらさないなら一体なんのために研究しているのか,PTGが臨床的に意味あるものならば,何らかのプラスがなければならないだろうと考えている.なので,TedeschiとCalhounが,PTGとPTSDを含む様々な負の症状は独立次元の話であり,PTGを経験したからと言ってストレスが低減するとは限らない,両者は別問題であると理論化したことには驚きを隠せない.けれども,実際に,ニューヨーク同時多発テロの被害者の方々や,イスラエルのテロの被害者の方々を対象として我々が行った調査では,皮肉にもPTGを経験している人ほどストレスも高いという結果が得られていて,私たちの仮説(PTGを経験した人ほどストレスが弱まるなど何らかの利益があるはずである)は支持されなかった.
  • そこで,その理由として我々が考えているのは,これらの調査で用いている尺度,つまりPTGIが「成長を遂げたという認識があるかどうか」という認知のみに焦点を当てているからだという点である.トラウマからの成長という概念を理解するに当たって,認知のみを測ったのでは不十分であり,もし行動面も付け加えることができたならば,PTGのプラスの効果が如実に現れるのではないかと考えた.そこで,パレスチナ自治区のガザで強制的に避難を求められる数日前に,そこの人々を対象として電話調査を行った.その結果,政府からの強制に対する抵抗運動に参加した人たちで,かつこの出来事から成長したという認知のある人のみにおいて,PTSDの割合が低下していた.つまり,「認知面」での成長が「行動面」につながっている人のみ,PTGの有益な効果が見出されたと言える.
  • まとめると,我々の研究は,Maerckerらが発表した「ヤヌスの顔を持つモデル」を支持している.このモデルとはPTGに二面性があるというものである.その一面は,Tedeschi&Calhounが言うように,トラウマによって本当に人格的な成長を遂げるという面であり,別の面とは,思い込みであって本当には人格的な成長を遂げているわけではないという面である.我々がこの論文で主張しているのは,本当のPTGにとって「行動面での変化」が重要な意味を持つはずであり,認知のみに焦点を当てることは不十分だろうという指摘である.

というわけで,彼らが言っているのは,非常につらい出来事を経験した結果として,「自分は日々のささいなことや当たり前のことにも深く感謝するようになった」と,本当の本当に感じているならば,それは行動に出るはずだという意見である.でもそれはどんな外部基準で測ることができるのだろうか?彼らの研究では,政府からの裏切りととらえられる強制行動に対して抵抗運動をしたことが「成長」の証だととらえられていた.果たしてそれが妥当だと言えるだろうか?テロの被害者は「テロ撲滅運動」等に参加することによって本当に「成長した」と認められるのだろうか.認知あるいは主観のみに頼るのではなく,何らかの行動面での変化も加えるべきではなかろうか,という研究者の意図は直感的に分からなくはないけれど,行動面での変化を期待することでPTGの本質に近づくというよりは遠のく感じがして,いろいろ考えさせられる.

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