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Jayawickreme & Blackie (2014)

3月 8, 2015

Jayawickreme, E., Blackie, L. E. R. (2014). Posttraumatic growth as positive personality change: Evidence, controversies and future directions. European Journal of Personality, 28, 312-331. doi: 10.1002/per.1963 「European Journal of Personality」という人格心理学専門の学術雑誌で,昨年PTGの特集が組まれた.この号では,アメリカのウエストフォーレスト大学の二人の研究者がPTG研究について現在問題となっている点を指摘し,今後どのような研究が必要かについて提言を行っている.私なりに解釈すると,著者には二つ言いたいことがあるのだと思う.ひとつめ.PTGIという尺度を用いた横断的な研究手法が氾濫しているせいで,PTGの研究の発展が妨げられている.研究者はPTGIを使うのを今すぐやめるべきである.ふたつめ.人格心理学者がPTGにもっと関心を持つべきである.生涯発達の見方を持ち出すまでもなく,パーソナリティが変わり得るということは知られている.大変なストレスを引き起こすようなつらい出来事から人がどう変わるかというPTGにパーソナリティ心理学がこれまで蓄積してきた研究方法論や理論を導入することで,PTGの理解もより深まるだろうし,パーソナリティが発達・成長・変化するということに対する理解も深まるだろう. レビュー論文なので,大まかに節ごとの内容を要約しておく.

  1. はじめに
    • 本稿の目的は,PTGを「ポジティブな方向にパーソナリティが変化すること」と定義した上で,PTG研究の問題点と今後の研究の方向性をまとめ,なぜパーソナリティ心理学者にとってこのテーマが重要なのかを説明することである.
  2. PTGはこれまでどのように概念化されてきたのか
    • 4つの理論をレビューする: (1) Tedeschi & CalhounsによるPTGモデル,(2) Joseph & LinleyによるEudaimonic wellbeing(自律的・目的志向的ウエルビーング)をPTGだととらえるモデル,(3) Pals & McAdamsによるPTGをナラティブが書き換えられることだととらえるモデル,(4) HobfollらによるPTGは行動を伴って初めて真の成長だと見なせるというモデル
  3. PTGのメカニズムについて
    • 現在のところ,PTGは,大変なストレスを引き起こす出来事をきっかけとして,これまでに自分が信じてきた価値観や信念が揺さぶられることから,侵入的思考,意図的熟考という認知プロセスを経て,まわりの信頼できる人との対話などを通して経験されると説明されている.しかし,パーソナリティがどのような役割をになっているのかについては不明な点が多くある.
  4. PTGはどのように測定されているのか
    • 最もよく用いられているのがPTGIなどの自己報告式尺度である.
  5. 今日実証的に示されているPTGのエビデンス
    • 先行研究からPTGには複数の領域があることがわかっている.ただし,心身の健康とPTGとの関連については一貫した知見が得られていない.PTGの時間的安定性に関する研究が不足している.
  6. 現在のPTG研究が我々の理解をむしろどう妨げているのか
    • 先行研究の多くがPTGIを用いた横断的方法に頼っているため,PTGIで高得点の人は,本当にPTGを経験した人だとは限らず,プラスの面をみつける能力が高い人も含まれている可能性がある.コントロール群を設けていない研究があまりにも多くて,得られた回答が本当に出来事をきっかけとしたPTGなのかどうか,断言できない.
  7. PTGについてこれまでになされているものとは異なる,別の説明
    • 例えば,出来事の前の自分をあえて卑下することによって,今の自分が,あの時よりはより良い状態だと思い込むことを通して,目の前のつらさに対処している可能性がある.それだとPTGは真の成長ではなく,コーピングにすぎないし,歪んだ認知にすぎない.PTGのようなポジティブな変化に焦点を合わせることで,自分を納得させようとしている可能性がある.そしてもしそうだとすると,PTGはPTGではないことになる.
  8. PTGの先行研究からもし何かわかったとすれば,それは何なのか
    • 先行研究からは随分と多くの人に「PTG」がみられることがわかっている.この「PTG」が本物のPTGだという証拠はないので,厳密に言うならば,本当に成長を経験した人が多いかどうかはわからないけれど,成長を経験したと思い込んでいる人がたくさんいることはわかっている.もちろん,成長したとの思い込みが,実際の変化をもたらす可能性は大いにあるだろうが,そのことについての研究はほとんどなされていない.
  9. PTGをパーソナリティの立場から科学的に研究するために
    • 調査に協力してくださる人に対して,横断的に,「その出来事の前と後でどう変わりましたか」と聞くような方法論はやめて,「今のあなたに以下のことがあてはまりますか」と現状を聞く方法論を用いて縦断研究をすべきである.そして,認知面のみならず行動面の変化も視野に含めるべきである.
  10. PTG研究がどうパーソナリティ心理学の前進につながるのか
    • トラウマに引き続いて生じる変化の中で,一過性のものと,その人らしさを根本から変えるような長期にわたるものを区別し,見極めることで,パーソナリティのさらなり理解にもつながるだろう.
  11. 結論
    • 最後に私たちが考える理想の研究方法を示しておく.今後はPTGIに頼らないPTG研究が必要である.以上.

このジャーナルには,引き続いてTedeschiらによる反論も掲載されている.Jayawickreme & Blackie論文に対しても,Tedeschi et al.論文に対しても思うことはたくさんあるけれど,それは研究とか論文とかいう形に具体化して示していくものだと思っているので,ここでは具体的にどの点に対して反対とか,どの点に関して賛成できるとかはあえて書かないでおく.でもざっくり言えば,両方の論文に対して半分くらいは賛成できる.で残りの半分くらいは反対だ.その反対だと思う部分に関して,なぜ反対なのか,反対だと言えるだけの根拠がどこにあるのか,同意してしまうことの問題点がどこにあるのか,そういうことを考えるのもまた研究者の役目だと思う.

以上

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