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Marshall et al. (2015)

4月 26, 2015

Marshall, E. M., Frazier, P., Frankfurt, S., & Kuijer, R. G. (2015). Trajectories of posttraumatic growth and depreciation after two major earthquakes. Psychological Trauma: Theory, Research, Practice, and Policy, 7, 112-121. doi: 10.1037/tra0000005

PTGの研究で最も手に入りにくいデータのひとつは,出来事が起きる前のデータである.縦断研究を計画する際,初回にベースラインとして,その人の性格とか考え方とかのデータを取るとする.二回目のときに,「初回から今日までの間に自然災害や生死にかかわるような大変な出来事を経験しましたか」と問い,それに対して「はい」と回答した人のみ,初回のデータがベースラインになり得る.「いいえ」の場合にはこの二回目もベースラインのまま,三回目の調査を待つことになる.調査協力者の人に災難がふりかかるのを待つ研究デザインになる.しかも実際には,研究計画案を申請する際,それが縦断研究であることも,二回目(ないしは三回目)にどのような質問をするつもりでいるかということもすべて初回の同意書に含める必要があり,その点に対して初回に説明し,同意してもらわないことには調査を始めることすらできないため,こういった計画は倫理上とても難しい.そんななか,わりと奇跡的なデータを使った論文が発表された.ニュージーランドで2011年の2月に大きな地震があったが,その4ヶ月前(一回目),地震の3ヵ月後(二回目),そして地震の1年後(三回目)の合計三回からなる縦断調査である.ちなみに,この一回目のデータは奇しくも別の地震の一ヵ月後だったため,2度の地震を経験した人たちに3回からなる質問紙調査をお願いしたという貴重なデータとなっている.

  • 問題と目的:本研究では,3度の質問紙調査からなる縦断データを用いて,二度の地震に引き続いて生じたPTG(Posttraumatic Growth:ポジティブな変化)とPTD(Posttraumatic Depreciation:ネガティブな変化)の時系列変化,及びそれに影響を与えた要因について検討する.地震を二度経験した人たちが調査対象者ということで,結果を一般化しずらいと考えるかもしれないが,むしろ自然災害の場合には,被災地に居住している人にとって,災害の経験が生涯に一度ということは珍しく,二度,三度と経験する人も少なくない.したがって,本研究のようにわりと短期間の間に二度の地震を経験した人のデータを分析することは有用な情報をもたらしてくれるだろう.
  • 方法:初回と2度目の調査に参加した156名(地震発生時の平均年齢56.8歳)が対象となった.このうち3回目にも参加したのは144名である(この研究は実はさらに長期間にわたる縦断研究の一部であり,一番最初の調査には354名の方が参加されている).PTGとPTDは,Tedeschi&Calhounらの尺度を用いて測定したのではなく,Frazierらの独自の方法で測定してい る.独自の方法とは,PTGの領域に対応する16の項目について5件法(「前よりもずいぶんと悪くなった」がマイナス2点:「前よりもちょっと悪くなっ た」がマイナス1点:「変化なし」が0点:「前よりもちょっと良くなった」がプラス1点:「前よりもずいぶんと良くなった」がプラス2点)で査定するとい うものである.この方法は,「PTGIがプラスの変化のみを測定しているというのは問題ではなかろうか」という批判にこたえるために開発されたものである(具体的には「地震をきっかけとして他者の気持ちがより理解できるようになったかどうか」という項目に対して,むしろ地震の後で他の人の気持ちが全く理解できないようになった場合にはマイナス2点となり,逆にまさにその通りという場合にはプラス2点となる.理論上は,この方法を用いることで,変化がない場合も,プラスの変化もマイナスの変化もすべてひっくるめて測定できることとなる).この調査では,これら16項目に加えて,地震が起きる前の精神的健康の状態や地震の被災状況などについても聞いている.
  • 結果:実際の調査では,PTGの5因子の中の4つについてデータを取っているが,この論文ではその中の2つ(「人間としての強さ」と「他者との関係」)のみに焦点を当てて,集団軌跡モデル(Group-Based Trajectory Modeling: GBTM)を使い,PTG・PTDがどのように時系列で推移するか分析した.「人間としての強さ」の方は3つの軌跡が見出された.3時点を比較したところ,約7割の人(68%)が悪くもならず,良くもならずで,ずっと変化なし,19%の人が地震をきっかけとしてPTGを経験,そして13%の人が地震をきっかけとしてむしろ悪くなったという結果であった.「他者との関係」の方も3つの軌跡が見出されたが,その内容はすべてPTGを経験しているというものであり,違いは程度の差のみであった.具体的には49%の人が「他者との関係」に関する内容で中程度の高さのPTGを経験,40%の人が程度は低いもののPTGを経験,そして11%の人が程度が高いPTGを経験という結果であった.これらすべて(3+3=6つのパターン)において,3度の時系列上で大きな変化はみられなかった(つまり,PTGを最初に高く経験した人は1年たってもそのままという結果であった).予測子に関して言えば,「人間としての強さ」を予測していたのは年齢と地震前の精神的健康度合い(若い人ほど,そして精神的健康度の高い人ほどPTGを経験)であり,「他者との関係」を予測していたのは性別(女性の方がPTGを経験)のみであった.
  • 考察:本研究の結果,地震をきっかけとして,「人間としての強さ」よりも「他者との関係」に関するPTGの方がよく経験されていることが明らかになった.この結果は,自然災害の被災者のPTGに関する先行研究と一致するものである.自然災害は人間の力が及ばないものである以上,それを経験して自信がつくとか,自分の強さが自覚されるということは起きにくく,一方で,多くの人が救助活動を含めボランティアとして街に来てくれたり,地域の人同士が助け合ったりということから,人に対する思いやりの気持ちや共感,愛他的な行動が増えるのだと解釈される.また,本研究の結果,PTGやPTDの経験は時を超えて一貫していることも明らかになった.これは,時間と共にPTGがより高まるという仮説とは異なる結果である.なぜこういう結果が得られたのかと考えてみると,PTGを問うている私たちの項目が,実際のPTG経験を測定しているのではなく,起きた出来事に対する対処とか態度の個人差のようなものを反映してしまっているからではないかという可能性が浮かび上がってくる.今後は,前よりも良くなった(PTG),悪くなった(PTD)のような聞き方をせずに,その時その時の状態や行動を測定し,その変化でもってPTGやPTDをみることができるような方法論を確立することが必要だろう.

以上.

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