Peterson et al. (2008)
Peterson, C., Park, N., Pole, N., D’Andrea, W., & Seligman, M. E. P. (2008). Strengths of character and posttraumatic growth. Journal of Traumatic Stress, 21, 214-217. doi: 10.1002/jts.20332
今日はピーターソンとセリグマンらによる「Strengths of character(性格の強み,長所)」という概念とPTGの関連を検討した論文をレビューしたい.人が成長するといった時のその「成長」の具体的な内容には個人差があるが,その内容を大きく分類したときのカテゴリー(いわゆる5領域)は多くの国で観察されることが知られている.
- 人間としての強さ
- 他者との関係
- 新たな可能性
- 精神性的な変容
- 人生に対する感謝
その中で特に文化差という観点からよく議論になるのが「4.精神性的な変容」と「1.人間としての強さ」だ.4は今,おいておくとして,1番の人間としての強さ,つまり「自分自身が強くなる」ということの意味をとらえるのは難しい.「弱さを抱えている自分をありのまま認めることができる強さ」と「自分は弱い人間ではないと確信することの中にある強さ」は,感覚的にはわりと似た「強さ」で,両方とも1に含まれるタイプの「強さ」になりえるけれど,「今,自分は強いと感じる」などの(縦断研究方法に耐え得る)項目で聞くと結果は真逆になってしまう.ピーターマンとセリグマンらは,古今東西に見られる美徳の内容,広く偉業をなしとげた人に見られる徳や長所などを収集し,理論と統計の双方から「強み」の内容を24に分類している.今日はその24の内容についてもう一度復習することで,強さの意味について考え直したかったので,この論文を読んだ.
- 研究の目的:PTGの研究では,大変なストレスを伴う辛い出来事に引き続いて,それとの精神的なもがきの結果人間としての成長を経験する人もいることが知られている.PTG研究で見出されている5領域と,VIA (Values in Action:行為,生き方の中にある美徳)研究で見出されている24の強みの間には,一部,重複が見られる.たとえば,PTG研究の「他者との関係」における成長は,VIA理論では人間性の中の「愛」や「親切」と部分的に重なる.またPTG研究の「新たな可能性」は,VIA理論の知恵と知識の中の「好奇心・興味,独創性,向学心」と重なる.したがって,本研究では,これら内容的に重複するものに関しては両者が統計的にも相関関係を示しているかどうか検討し,さらに,トラウマを引き起こす可能性が高い出来事を数多く経験している人ほど,さまざまな強みやPTGが高くなっているのか検討する.
- 研究の方法:インターネット調査に参加した平均年齢40歳の成人1739名.彼らは240項目からなるVIA-ISと21項目からなるPTGIに回答し,さらにトラウマを引き起こす可能性が高い出来事(事故,災害,重い病など)の経験があるかどうかにも回答した.
- 研究の結果:全体の56%の被検者が少なくとも一回はそのような辛い出来事を経験したと回答していた.その内訳を見ると,25%が一回だけ経験したと回答し,18%が2回,9%が3回,そして5%の方が4回以上経験したとのことであった.これら「出来事の経験回数」を独立変数とし,VIA-IS得点及びPTGI得点を従属変数とした一要因分散分析を行った.その結果,いくつかの例外(希望や愛など)を除き,よりたくさんの出来事を経験している人ほど,強みやPTGが高いという,線形の関連が認められた.なお,強みとPTGの間には弱い(中には中程度の)正の相関が見られた.
- 研究の考察:Effect sizeは決して高くなかったものの,本研究の結果,つらい出来事を経験している人ほど,若干ではあるが,ほぼすべての内容で強みが増し,PTGの報告の程度も高いことが明らかになった.直感的には,トラウマを引き起こす可能性があるようなつらい出来事を複数回経験しているというのは「ハイリスク」グループであろう.しかし,本研究の結果,人は回復する力を兼ね備えている(すなわちレジリエントである)ことが確認された.ただし,24種類ある強みのすべてが同じように出来事の数やPTGと関連していたわけではない.例えば,希望・楽観性,慎重さなどは出来事の数と全く関連を示していなかった.したがって強みの中にも,辛いことを経験することで培われるタイプの強みと,そうでないものなどが混在している可能性があるだろう.
以上
2016年もどうぞよろしくお願いします.