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Lehav, Solomon, & Levin (in press)

3月 8, 2016

Lehav, Y., Solomon, Z., & Levin, Y. (in press). Posttraumatic growth and perceived health: The role of posttraumatic stress symptoms. American Journal of Orthopsychiatry. doi: 10.1037/ort0000155 (Advance online publication)

イスラエルのトラウマ研究者,Solomon博士と彼女の研究グループが発表した論文をレビューする.オンライン版がこの2月に出たばかりの最新の論文だ.この論文の目的は,PTGの二面性を身体的健康との絡みで検討しようという点にある.PTGの二面性とは:

  1. 本当の本当にポジティブな方向に人間性が変わるという意味での真の人格的成長という側面と,
  2. 本当は何も変わっていないのに防衛反応としてそう思い込んでいるだけであり,長期的に見るとむしろ不適応的な,幻の成長という側面

である.この二面性に関する議論がはじまってもう10年以上が経過していて,PTGは何ぞやに答えがないように,幻のPTGは何ぞやにも答えは出ていない.なので,研究者それぞれがこの両者を操作的に定義して研究することになる.この二面性に関して,ソロモンらは,もしも,調査参加者本人が言っているように,本当の本当に(しつこいか?)成長しているのであれば,長期的にみてストレス反応は弱まり,身体は健康になっているはずであると仮説を立てる(ちなみに私はなぜこういう仮説が成立するのか納得できない).結論から言うとこの仮説は成り立たず,PTGを経験している人ほどむしろストレス反応が高く出るという結果を得て,彼女らはPTGの負の側面をあぶりだしたという結論(つらい戦争及びそこで夫が戦争捕虜になったという痛ましい出来事をきっかけに成長していると頭では思っていても身体は正直だ,つらさがひどくなっているではないか,という結論)でこの論文を閉じる.

  • 問題と目的:PTGを考えたとき,その自己報告を鵜呑みにすることはできない.精神的なもがきの結果,世界観や自己に対する認識が大きく変わるような真の成長がある一方で,否認や回避の一形態としての幻の成長も指摘されているからだ.この議論と同様に答えの出ていない議論がPTGと健康(ストレス反応,PTSSなど)の関連だ.両者に負の相関を見出しているものもあれば正のもの,曲線のもの等,結果は一貫していない.PTGと健康について分析したこれまでの研究にはひとつ問題点がある.それは,研究対象となっている人の多くが,がん患者や交通事故被害者,HIV/AIDS感染者など,そもそも健康につらさを抱えているグループだからだ.したがって,PTGと健康の関連を検討するのであれば,ベースラインとしての身体的健康には大きな問題のない群を対象とすることが重要であろう.先行研究から,PTGはトラウマを経験した本人のみに限らず,その家族にも起きることが示されている.したがって本研究では,トラウマ(戦争)を経験した男性の妻を対象として,PTG(つまりSecondary PTGないしはVicarious PTG)が健康に及ぼす長期的な影響を検討することでPTGの二面性に迫りたい.
  • 方法:イスラエルを含むアラブ諸国で1973年に起きた第四次中東戦争の捕虜となった人の妻(Ex-POWの妻群)と,捕虜にはならなかった人の妻(コントロール群)に,戦争から30年後(Time1)と38年後(Time2)の二回調査を行った.Time1の調査に参加した90名のEx-POWの妻群のうち61名がTime2にも参加した.そしてTime1に参加した76名のコントロール群のうち,30名がTime2にも参加した.二度の調査において,PTGを測定するためのPTGI,PTSD症状を測定するためのPTSD尺度,身体症状について測定するためのSCL-90-R等を実施した.
  • 結果:Ex-POWの妻群において,コントロール群よりも有意にPTGとPTSD症状が高く,身体の健康度が低かった.PTG, PTSD症状,そして身体症状の2時点における双方向的関係を検討するために,共分散構造分析を用いてモデルを検討した.その結果,Time1でPTGやPTSD症状が高かった人は,Time2でもそれらが高いという当然の結果が得られたが,それに加えて,Time1でのPTG得点が,PTSD症状のTime1からTime2へのプラスの変化を予測し,それが健康上の問題をTime2で引き起こすという結果も得られた.媒介分析の結果も同様で,Time1でのPTGがTime2でのPTSD症状の悪化を引き起こし,それがTime2での身体健康度の低下につながるというものであった.
  • 考察:以上から,自己報告によるPTGは長期的な健康度の悪化を引き起こしており,本来果たすべきプラスの役割が認められないことが明らかにされた.Positive Illusionの研究結果からは,たとえ真実に基づかなかったとしても,現実を歪めた形で認識し,PTGを過剰に報告した場合には,少なくとも健康にとってプラスの役割があってしかるべきだと考えられる.しかし,本研究では,PTGは健康にとってネガティブな結果を引き起こしているという結果が得られた.これはPTGの現実回避としての,不適応的性質を示唆している.戦争を機に成長したと(真実ではないプラスの変化を)信じていることで,つらさを回避し続けた結果,結局のところ健康を損ない,本来建設的なコーピングを取る可能性もつぶしてしまったのではなかろうか.ただし,本研究の結果をこのように解釈するにあたって留意すべき点として,本研究においては,サンプル数が少ないこと,自己報告のみに頼っていること,健康に関して客観的指標を得ていないこと,そして戦争から30年後・38年後にデータを取っていることから,PTGの回答の信憑性に欠けることなどの問題点もあることを気に留めておく必要がある.今後は,PTGが身体的健康に及ぼす短期的・長期的影響についてさらに検討することが重要であろう.

以上.

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