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Cann, Calhoun, Tedeschi, & Solomon (2010)

2月 23, 2014

Cann, A., Calhoun, L. G., Tedeschi, R. G., & Solomon, D. T. (2010). Posttraumatic growth and depreciation as independent experiences and predictors of well-being. Journal of Loss and Trauma, 15, 151-166. doi: 10.1080/15325020903375826

PTGに関連して,PTDという略語がある.PTDを知っていたら,かなりマニアだと思う.好奇心から,「2014年2月の今日の時点で,PsycINFOでPTDをキーワードに入れたら,どれくらいの文献がヒットするかな?5本くらいかな?」と思って調べてみたら,なんと139もヒットした!一瞬びっくりしたけれど,もちろんそんなはずはなくて,よくみてみると,PTDと略されている言葉にはいろいろあるみたい.例えば「Perceived Taste Disturbance(本人によって認識されている味覚異常)」もPTDだし,「Preterm Delivery(早産)」もPTDと略すらしい.なので,PTDと言えば「Posttraumatic Depreciation – つまりGrowth(成長)じゃなくてDepreciation(下落).PTDとはPTGの逆で,トラウマに引き続いて,PTGと同じ5領域の内容で逆にネガティブな方向に変わること」しかないと思っていた私はやっぱりマニアだと思う.で,再度,Posttraumatic Depreciationと全部入力して文献検索してみると,4本出てきた.まあ,そんなものだろう.これは,PTGIが広く使われるようになるにつれて,PTGIにはポジティブな方向の変化しか含まれていないため,回答に偏りが生じているのではないかとか,逆方向の変化も問うた方がいいのではないか,などの批判が出てきたため,PTG研究室のメンバーが,それならと,既存の21項目それぞれに対して逆向きの項目を考え,21項目×2=42項目版(PTGI-42)を作ったのがきっかけになっている.

  • 問題と目的:PTG21項目とその逆PTD21項目の関係を検討すること.そして,その両者に対して,その予測因子(中核的信念の揺さぶられ具合,引き金となった出来事のストレス度合い,出来事について考え込むことがあったかどうかなどの認知的プロセス)及び結果因子(QOLークオリティーオブライフ,満足度,人生に意味を見出すことができているかなど)を検討することが目的であった.
  • 調査対象者:過去3年の間に,大切な人の死,重篤な病など,トラウマとなるような出来事を経験した大学生118名が対象となった.
  • 調査内容:PTGI-42(5つの下位尺度21項目からなるPTGIと,同じく5つの下位尺度21項目からなるPTDI).項目の例としては,PTGIの中にある「他の人達との間で、より親密感を強く持つようになった」という項目ならば,PTDIでは「他の人達との間で,親密感が弱くなった」となるし,PTGIの「他者に対して、より思いやりの心が強くなった」という項目ならば,PTDIでは「他者に対して,より思いやりの心が弱くなった」となる.つまり,それぞれに対応させる形で真逆の意味合いを持つように作られたのがPTDを測定する項目だ.これら42項目に加えて,認知的プロセスを測定するための尺度や人生に対する満足度を測定する尺度などが用いられた.
  • 結果:PTGI21項目合計得点とPTDI21項目合計得点の関係は無相関だった.両概念は真逆なのだから,負の相関が得られて自然だと思うけれど,そのような結果は得られなかった.私にとって最も興味深かった結果は,PTDIがほとんど経験されていないことだ.PTGI,PTDIともに,0点から5点で評定するので,合計得点の範囲は両方とも0から105となる.PTGの平均は52.36(標準偏差は24.44).まあそんなもんだろう.日本人では40点台が多いけれど,アメリカ人大学生を対象とした調査であれば,まあこんなもんだろう.けれども,PTDの平均はなんと16.38(標準偏差が17.16)!低い.同じ0点から105点という得点範囲だったとは思えないほど低い.その他相関係数の分析やら重回帰分析の結果やらを総合すると,PTGの方は予測因子も結果因子も仮説どおりの結果が得られたけれど,PTDの方はなんとも解釈しがたい結果だったと言える.例えば,PTDは長期にわたる侵入的思考と関係があるなど,仮説どおり(?)の知見も得られてはいるが,さてそれをどう考察して次につなげることができるかと考えると,(うーん,あまり発展性はない)といわざるを得ないと思う.
  • 考察:PTGIがポジティブな方向しか拾えていないという批判が寄せられたため,逆方向も拾えるような尺度を準備したものの,結果はほとんどの人がPTDを経験していないというものであった.つまりは,逆向き21項目が今後も必要だとは言えない,という結果だったと言えよう.

確かに,振り返ってみると,PTGIがポジティブな変化しか測定できていないから,ネガティブなものを見落としているかもしれないし,回答に偏りが生じる原因となっているかもしれないという批判に対応するためだけに,21項目そのままキープして,内容のみ真逆にしたのは,若干,短絡的な部分があったかもしれないと思う.けれども,こういう試行錯誤的な尺度を作ってでもその結果を発表しておく必要があったのは,「PTGIはポジティブなものしか測っていない」という批判の多さに一因があると思う.トラウマや人生上の困難からのポジティブな変化というものを測定しようとすることへの風当たりの強さはいろいろな面で感じる.実際,ネガティブな心身の変化を測定するために,PTSD症状や不安,悲しみ,怒りなどのストレス反応を同時に測定している研究は多いけれど,それでよしとするのではなく,PTGIの5領域にそった形でマイナスの方向の変化を測定すべきであるという意見を組んだ結果の論文がこれだと言えよう.まあでも結論からすると,項目内容が自然ではないこともあって,経験したと回答した人の割合が非常に低く,さらに,このPTDが実際何を測定しているのかという構成概念があやふやなこともあって,きっとこれからもPTDはマニアのみ知っている概念であり続けるだろうと思う.

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