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Johnson & Boals (in press)

7月 31, 2015

Johnson, S. F., & Boals, A. (in press). Refining our ability to measure posttraumatic growth. Psychological Trauma: Theory, Research, Practice, and Policy. doi: 10.1037/tra0000013

来週APA(American Psychological Association)の学会が始まる.私は水曜日(8/5)から日曜日(8/9)までフルで参加の予定だ.学会への参加はなるべく年に1回と決めているので今年はこれ一本.特に楽しみなのは最終日のシンポジウムで,Rich Tedeschiとも一年ぶり.Jane Shakespeare-Finchとは数年前のISTSS(International Society for Traumatic Stress Studies)以来なので話したいことがたくさんある.で,今日レビューする論文はこのAPAのDivision56 トラウマに関連する部門が発行しているジャーナルにアクセプトされたものだ.今回この論文を選んだのは,読んですぐにため息が出るくらい「すごく勉強になる」と思ったからだ.多分一週間くらい前だと思うけれど,最初読んだとき図書館にいたにもかかわらず,「なるほど」と声が出たくらいだ.私がPTGマニアだから特にそう思ったのかもしれないけれど.

  • 問題と目的:PTGを測るためのPTGIは信頼性も妥当性も兼ね備えている自己回答式の尺度として多くの研究で使われてきている.けれどもPTGIが自己報告に頼っている点について疑問を唱える研究者もいる.そういった研究者がよりどころにしているのは2009年のFrazierらの論文だ(この論文は私のブログでもレビューしている).Frazierらは「PTGIでは本物のPTGが測定できていない」と主張している.我々の問題意識の所在は,Frazierらの研究の問題点を整理して,彼らの結論が妥当なのかどうかを検討しなおすことにある.我々が考えるのは,PTGIで本物のPTGが測定できる場合とできない場合があるのではないかということだ.PTGの理論モデルでも示されているように,PTGにとって重要なのはその出来事が本人の信念を根底から揺さぶるような経験になっているかどうかという点にある.したがって,強いストレス反応を引き起こすような出来事を経験した人の中でも,特にその出来事が自分に大きな影響を与えたと思っている人だけに絞ったならば,PTGIでの回答は妥当なものになるだろう.けれども,強いストレス反応を伴う出来事を経験した人の中で,その出来事が自分に大きな影響を与えたとは思っていない人の場合,PTGIへの回答は真の成長を反映していないということができるのではないだろうか.そして,Frazierらの研究ではこの変数が研究に含まれていない上に,後者にあたるグループがサンプルに多く含まれていたと考えられる.そこで本研究ではこの主観的な影響という部分に関して,「Event Centrality(出来事の中心性)」という概念を用いて検討し,Frazierら(2009)の結果と類似の結果が得られるかどうか検討する.
  • 用語:Frazierらは,PTGIで測定されたPTGのこと(すなわち今の時点から振り返って自分で自分がどれだけ成長したかを評定した結果としてのPTGI得点)を「Perceived Growth」と呼んで,「Actual Growth」と区別した.彼らにとってのActual Growth(実際の成長)とは,ある特性を2時点で測り,引き算したものを指す.しかしながら,我々はこの呼び方には問題があると思う.というのも,Actual growthを測定するための2時点での評価は結局自己報告によっているからだ(ある時点で自分がどれほど思いやり深い人間か回答し,その数週間後に再度自分がどれほど思いやり深い人間かを回答して,両者を引き算した結果をActual growthと呼んでいるが,その両方の回答は結局自己報告によっている).したがって我々は「Perceived Growth versus Actual Growth」という対語とは別の言葉を用いる.PTGIで測定されたものは,引き続きそのまま「PTG」と呼ぶ.そして2時点での差は「Quantifiable change (定量化できる変化)」と呼ぶ.「成長」ではなく「変化」という言葉を用いたのは,引き算の結果が必ずしもポジティブなものになるとは限らないからである.したがって,本研究では「PTG versus Quantifiable Change」という対語を用いる.
  • 方法:2198名の大学生の中で,8週間の間隔を隔てた2回の調査に参加し,かつその8週間の間に非常にストレスの高い出来事を経験した1295名を分析対象とした.Event CentralityはCentrality of Events Scale (CES)で,PTGはPTGIで測定した.2時点での差によって表される「定量化できる変化」についての尺度はFrazierらで使われたものと同じものを用いた.
  • 結果:CES得点によって高群(138名)と低群(1153名)を分類し,7つの「定量化できる変化」それぞれを従属変数に置いた重回帰分析を行った.予測変数はPTGI得点,CES得点,そして両者の交互作用の3つであった.その結果7つのモデル中,宗教心の変化を除く6つのモデルで交互作用が有意であり,「定量化できる変化」がPTGIを反映しているかどうかはCES得点次第だという我々の仮説が支持された.
  • 考察:本研究の結果,PTGIの回答が2時点の差を全く反映していないという結論は早計であり,ある出来事を経験した人の中でその出来事が自分という人間にとって(アイデンティティにとって)なくてはならない経験となったという実感のある人のみに絞ってみれば,PTGIはかなり正確なのではないかということが示唆された.我々の知る限り,CESと類似の概念を測定するものとして,CBI(Core Beliefs Inventory:中核的信念尺度)がある.したがって,それを用いても本研究と同様の結果が得られるのではないだろうか.つらい出来事を経験した人のすべてにPTGが生じるということを前提に研究してそのような結果が得られなかったからそもそもの尺度が間違っていると結論づけるのではなく,つらい出来事を経験した人の中でPTGを経験する人はすべてではないという事実に着目することが必要だ.

以上

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