Tedeschi & Calhoun (2008)
Tedeschi, R. G., & Calhoun, L. G. (2008). Beyond the concept of recovery: Growth and the experience of loss. Death Studies, 32, 27-39. doi: 10.1080/07481180701741251
Tedeschiらと新しいPTGのハンドブックを出版するため,今,執筆活動中で,あれこれいろいろ考える.前回のハンドブックが出版されたとき,UNC Charlotteにいたので,Richからこの水色の本をもらって感激したことを覚えている.あれが2006年だったので,あれから10年.ハンドブックは,その後2014年に,日本の先生方と訳して医学書院から出版させていただいたが,もう随分昔という感じがする.で,知見が古くなりつつあるので,今回,新しいハンドブックを書こうということになった.それを聞いたのは去年の夏のAPAの時で,(えー本当に書くの?私も書くの?)と半信半疑だったけれど,皆で話しているとアイデアはどんどんわいてきた.特に今回は,前回のように,各章をそれぞれの担当者が独立に書くのではなく,最初から最後まで皆で書くというスタイルだ.皆というのは,私を含め4名(Rich Tedeschi, Lawrence Calhoun, そしてJane Shakespeare-Finch)で,私がトップバッターになって,まず一章書き,二番手であるJaneがいろいろ追加して,三番手であるRichにつながり,最後にアンカーであるLawrenceが仕上げ,また私に戻ってきて内容を確認して,Janeも納得できるか確認して,という段取りなので,私は全くの白紙に書きたいことを自由に書けてとてもありがたい.しかも英語で本を書くというのはこれがはじめてなので,学術論文のように制限もないなか,言いたいことをどんどん盛り込めて嬉しい.で,今,書いている章で,「PTGと回復」について論じたいと思っているので,そのために読んでいる論文の中から一本レビューしたいと思う.この論文はデータを分析しているわけではないが,DSM5が出る5年前にRichらが自分達の臨床経験をもとに,考えをこのようにまとめていたことを知るのは興味深い. 続きを読む…
DeViva et al. (2016)
DeViva, J. C., Sheerin, C. M., Southwick, S. M., Roy, A. M., Pietrzak, R. H., & Harpaz-Rotem, I. (2016). Correlates of VA mental health treatment utilization among OEF/OIF/OND veterans: Resilience, stigma, social support, personality, and beliefs about treatment. Psychological Trauma: Theory, Research, Practice, and Policy, 8, 310-318. doi: 10.1037/tra0000075
8ヶ月に及ぶ日本でのサバティカルが終わった.その最後に,次につながる興味深い論文をみつけたので紹介したい.この論文では,「PTSD症状などが出ていないかスクリーニング検査をうけた結果,精神的健康に問題があるから,クリニック等の援助機関にリファーされた退役軍人」を対象に,彼らがリファーされた後,通院が継続するかどうかを検討している.研究者としては,受診につながり,治療施設が利用されることが望ましいわけだから,「実際の通院回数」や「心理療法と薬物療法の両方を受けたか」などを結果変数として,それに影響を及ぼす要因を検討している.その要因の中にPTGやレジリエンス,パーソナリティ,ソーシャルサポートなどが含まれている.そういった要因を調査した半年後に,調査協力者の治療記録にアクセスできるというのは,医療機関に所属している研究者だからこそのメリットであるかもしれないが,それにアクセスできてしまうからこそ,結果変数が「治療を受けたかどうか」というわかりやすいものになってしまい,それは(私の目からみると)デメリットである. 続きを読む…
Baker et al. (2008)
Baker, J. M., Kelly, C., Calhoun, L. G., Cann, A., & Tedeschi, R. G. (2008). An examination of posttraumatic growth and posttraumatic depreciation: Two exploratory studies. Journal of Loss and Trauma, 13, 450-465. doi: 10.1080/15325020802171367
今日は少し古めの論文をレビューしたい.それにしても,2008年の論文を「古め」と言わざるを得ないくらい,論文が日々怒涛のように出版されている.投稿先となるジャーナルの数が増え,研究者(というか論文を投稿する人)の数が増え,とにかくアカデミックな場面で数が重視され,書いて書いて書きまくれといわんばかりだ.数日前,あるジャーナルに投稿していた論文の査読結果がかえってきたが,そこに添付されていたレビュアーからのコメント:「引用文献に記載されている50本の論文のうち,過去5年(2011年からin press)に出版されたものが10本しかない.50本の論文のうち,2000年から2010年のものが約30本,1990年代のものが約10本と,知見が非常に古いと言わざるを得ない.現在の知見を反映させるように,引用文献のリストを修正するように」というものだった.なので,私達の研究グループは今リストの見直しに追われている.そんななか,今日はあえて2008年の論文をレビューしたい.というのも,今,これが結構注目を浴びているからだ. 続きを読む…
Lehav, Solomon, & Levin (in press)
Lehav, Y., Solomon, Z., & Levin, Y. (in press). Posttraumatic growth and perceived health: The role of posttraumatic stress symptoms. American Journal of Orthopsychiatry. doi: 10.1037/ort0000155 (Advance online publication)
イスラエルのトラウマ研究者,Solomon博士と彼女の研究グループが発表した論文をレビューする.オンライン版がこの2月に出たばかりの最新の論文だ.この論文の目的は,PTGの二面性を身体的健康との絡みで検討しようという点にある.PTGの二面性とは:
- 本当の本当にポジティブな方向に人間性が変わるという意味での真の人格的成長という側面と,
- 本当は何も変わっていないのに防衛反応としてそう思い込んでいるだけであり,長期的に見るとむしろ不適応的な,幻の成長という側面
である.この二面性に関する議論がはじまってもう10年以上が経過していて,PTGは何ぞやに答えがないように,幻のPTGは何ぞやにも答えは出ていない.なので,研究者それぞれがこの両者を操作的に定義して研究することになる.この二面性に関して,ソロモンらは,もしも,調査参加者本人が言っているように,本当の本当に(しつこいか?)成長しているのであれば,長期的にみてストレス反応は弱まり,身体は健康になっているはずであると仮説を立てる(ちなみに私はなぜこういう仮説が成立するのか納得できない).結論から言うとこの仮説は成り立たず,PTGを経験している人ほどむしろストレス反応が高く出るという結果を得て,彼女らはPTGの負の側面をあぶりだしたという結論(つらい戦争及びそこで夫が戦争捕虜になったという痛ましい出来事をきっかけに成長していると頭では思っていても身体は正直だ,つらさがひどくなっているではないか,という結論)でこの論文を閉じる. 続きを読む…
Peterson et al. (2008)
Peterson, C., Park, N., Pole, N., D’Andrea, W., & Seligman, M. E. P. (2008). Strengths of character and posttraumatic growth. Journal of Traumatic Stress, 21, 214-217. doi: 10.1002/jts.20332
今日はピーターソンとセリグマンらによる「Strengths of character(性格の強み,長所)」という概念とPTGの関連を検討した論文をレビューしたい.人が成長するといった時のその「成長」の具体的な内容には個人差があるが,その内容を大きく分類したときのカテゴリー(いわゆる5領域)は多くの国で観察されることが知られている.
- 人間としての強さ
- 他者との関係
- 新たな可能性
- 精神性的な変容
- 人生に対する感謝
Ryff & Singer (2008)
Ryff, C. D., & Singer, B. H. (2008). Know thyself and become what you are: A eudaimonic approach to psychological well-being. Journal of Happiness Studies, 9, 13-39. doi: 10.1007/s10902-006-9019-0
4年に一度の国際心理学会議,ICP (International Congress of Psychology)が近づいてきた.最初にシンポジウムのお話をいただいたのは2013年の春だったので,当時は(おお!2016年の学会を今から計画するのか)とすごく先のことのように思っていた.けれどもいつのまにか時間はたっていよいよ来年の夏だ.私も共同研究者といくつか研究発表を企画している.そこで今回はこのICPのKeynote Speakerの一人であるCarol Ryffの論文をレビューしたいと思う.彼女の言う「心理的ウエルビーング(Eudaimonic well-being)」はレジリエンスやPTG研究ともなじみが深く,Stephen Josephなんかは,辛い出来事に引き続いて体験される心理的ウエルビーングがPTGだ(PTG = eudaimonic happiness following tragic life events)と言っているくらいだ.研究の歴史も含めてこのあたりの概念は皆似通ったところがある. 続きを読む…
Arpawong et al. (2015)
Arpawong, T. E., Sussman, S., Milam, J. E., Unger, J. B., Land, H., Sun P., & Rohrbach. (2015). Post-traumatic growth, stressful life events, and relationships with substance use behaviors among alternative high school students: A prospective study. Psychology & Health, 30, 475-494. doi: 10.1080/08870446.2014.979171
私は今,大学生の飲酒とPTGに関連した論文を書いている.数年前にその研究計画を立てる際に参考にした南カリフォルニア大学のDr. Milamらの研究グループの最新の論文をレビューしたい.彼らは思春期・青年期のPTG及びHIV感染者のPTGに力を入れている研究グループだ.彼らの研究チームは予防医学・ポジティブ健康心理学を背景に,PTGの経験が問題行動の予防にどうつながるかという視点で研究を重ねてきている.この新しい論文では,薬物予防プログラムに参加した高校生を対象に,参加前(ベースライン)と参加2年後のフォローアップを比べ,PTGが薬物乱用や十代の飲酒を予防する効果があるか検討している.縦断研究で,統計的にベースラインをコントロールした上で,PTGが十代の薬物乱用及び飲酒の予防に効果があると示してくれているので,PTG研究者としては「グッド・ジョブ!サンキュー!」と言いたい論文だ. 続きを読む…
Pat-Horenczyk et al. (2015)
Pat-Horenczyk, R., Perry, S., Hamama-Raz, Y., Ziv, Y., Schramm-Yavin, S., & Stemmer, S. M. (2015). Posttraumatic growth in breast cancer survivors: Constructive and illusory aspects. Journal of Traumatic Stress, 28, 214-222. doi: 10.1002/jts.22014
PTGの二面性についての研究が盛んだ.PTGには裏の顔,つまりポジティブで良い意味の成長という側面だけではなく,逆に真実にしっかり向き合わない,幻想とも言うようなネガティブな側面があることを論文の中で指摘したのはドイツの研究者Maercker & Zoellner (2004)だ.2004年というともう10年以上前になる.その2004年の論文というのは「Psychological Inquiry」というジャーナルでPTGについての特集が組まれた年にあたる.そこには16ほどのPTGに関する論文が収録されていて,Tedeschi&CalhounのPTGモデルもそこで紹介されている.さて,この二面性は「Janus Face Model(ヤヌスの顔ー前向きと後ろ向きの顔を持つ神ーモデル)」として紹介されたが,それに対して研究者はその後さまざまな反応を示して,「いや,PTGは幻想なんかではない」とかたくなに信じてそれを証明しようとする論文もあれば,「少なくともPTGIで測定しているPTGはすべて幻想でしかない」とわりと極端な主張をしている論文もある.けれども多くの研究者は,まあPTGには両面あるでしょうという感じだ.私自身もその「両面あるでしょう」の立場だし,今日読んだこの論文もまた「両面あるでしょう」という感じだ.けれども彼らの研究の独創的な点は,PTGとコーピングを組み合わせて,PTGの二面性をあぶりだそうとしたところにある. 続きを読む…
McCormack, Hagger, & Joseph (2011)
McCormack, L., Hagger, M. S., & Joseph, S. (2011). Vicarious growth in wives of Vietnam veterans: A phenomenological investigation into decades of “lived” experience. Journal of Humanistic Psychology, 51, 273-290. doi: 10.1177/0022167810377506
サバティカルで日本に行くことが正式に決まった.来年1月から8月のお盆明けまで早稲田大学にお世話になる.サバティカルの間は授業やその他の委員会活動(会議など)がないので,研究のみに没頭できる貴重な機会となる.そのため春先からずっと研究計画を練ってきた.この研究案の中で,今回はじめてパーソナリティのHEXACOモデルを取り入れることになった.そのメインの理由はHの要素(Honesty-Humility:正直さー謙遜さ)にある.PTG研究では,自分で自分を振り返って,成長したかどうかを自分なりに判断するという,いわゆる自己報告式のアプローチが主流だけれど,一部の研究者は,そういう自己報告ではなくて,本人の「その人となり」,つまりパーソナリティが根本的にいい方向に変わったかどうかでPTGを判断すべきだと主張している.例えば,自分さえ良ければいい,嘘をついても,人をだましても,自分がほしいものを手に入れることができれば問題ないという性格だった人が,ある出来事を経験したことによって大きく変わり,正直者となり,たとえ自分が損な役回りを引き受けることになったとしても人を利用するなんてことはないという性格に変わることが仮にあったとしたら,そこではじめてそれがPTGだろうという主張だ.でもここで難しいのは,どういう性格になったらPTGと呼べるかが人によって異なることだ.「正直な性格になる」ことがイコールPTGではない(と思う).そこで,できるだけいろんなPTG論文を読んで,それぞれの研究者がPTGをどうとらえているのか情報収集している.そんなときにこの論文を見つけた. 続きを読む…
Moore et al. (2011)
Moore, A. M., Gamblin, T. C., Geller, D. A., Youssef, M. N., Hoffman, K. E., Gemmell, L., Likumahuwa, S. M., Bovbjerg, D. H., Marsland, A., & Steel, J. L. (2011). A prospective study of posttraumatic growth as assessed by self-report and family caregiver in the contexdt of advanced cancer. Psycho-Oncology, 20, 479-487. doi: 10.1002/pon.1746
学会APA(American Psychological Association)が終わった.Dr. Steven Hobfollのトークを聞いて彼と話ができたことは大きな収穫になった.PTGに反対している研究者と意見を交わすことはいい刺激になる.またプライミングを使った実験研究にたくさん触れることができたのも収穫だ.それに関連してTMT(Terror Management Theory: 存在脅威管理理論)の研究発表がいくつかあって,彼らとPTG対TMTの話ができたのも大きい.ミシガンに戻ってから久しぶりにまた脇本竜太郎氏の「存在脅威管理理論への誘い(サイエンス社)」を読んだ.「存在論的恐怖を思い起こさせるような刺激や状況に出会うと,人は自尊感情を獲得するような反応を示したり,文化的世界観を擁護したりするようになる(P.10)」というTMT研究で積み上げられてきた知見に依拠するならば,PTGもまたそのような状況において圧倒的な恐怖から自らを守るためのメカニズムと言えるのかもしれない.でもそうかな.それで説明できるのかなという漠然とした疑問もある.そんなことを考えつつ,このMooreらの論文を読んだのでそれをレビューしたい. 続きを読む…
Johnson & Boals (in press)
Johnson, S. F., & Boals, A. (in press). Refining our ability to measure posttraumatic growth. Psychological Trauma: Theory, Research, Practice, and Policy. doi: 10.1037/tra0000013
来週APA(American Psychological Association)の学会が始まる.私は水曜日(8/5)から日曜日(8/9)までフルで参加の予定だ.学会への参加はなるべく年に1回と決めているので今年はこれ一本.特に楽しみなのは最終日のシンポジウムで,Rich Tedeschiとも一年ぶり.Jane Shakespeare-Finchとは数年前のISTSS(International Society for Traumatic Stress Studies)以来なので話したいことがたくさんある.で,今日レビューする論文はこのAPAのDivision56 トラウマに関連する部門が発行しているジャーナルにアクセプトされたものだ.今回この論文を選んだのは,読んですぐにため息が出るくらい「すごく勉強になる」と思ったからだ.多分一週間くらい前だと思うけれど,最初読んだとき図書館にいたにもかかわらず,「なるほど」と声が出たくらいだ.私がPTGマニアだから特にそう思ったのかもしれないけれど. 続きを読む…
Taku & Oshio (2015)
Taku, K., & Oshio, A. (2015). An item-level analysis of the Posttraumatic Growth Inventory: Relationships with an examination of core beliefs and deliberate rumination. Personality and Individual Differences, 86, 156-160. doi: 10.1016/j.paid.2015.06.025
早稲田大学,小塩真司さんとの共著論文をレビューしたいと思う.PTGIという自己記述式の尺度が1996年に発表されてから20年弱が経過しているが,ここ数年,PTGIの妥当性にまつわる研究が増えている.これら妥当性に関する研究の三分の一くらいが,「この尺度には妥当性に問題がある.このままの形で使うべきではない.これを使って発表されてきたこれまでの全ての論文は真のPTGを反映しているとは言えない.即刻やめて,これからは別の方法を考えるべきだ」と言っていて,三分の二くらいは,「この尺度には妥当性がある.だからと言って尺度が完璧であって改善の余地がないとは言わないが,これを使って発表されてきたこれまでの全ての論文には意味がある.これからもさらなる開発,発展を考えていくことが必要である」と言っている.そこで,私たちは,このどちらの側に立つとか,どちらの方が正しいとかを議論するのではなく,そのいわば中間,この尺度には妥当性が「ある」部分と「ない」部分が混在している可能性があるのではないか,という仮説を立ててこの論文を執筆した. 続きを読む…
Blackie, Jayawickreme, Helzer, Forgeard, & Roepke (in press)
Blackie, L. E. R., Jayawickreme, E., Helzer, E. G., Forgeard, M. J. C., & Roepke, A. M. (in press). Investigating the veracity of self-perceived posttraumatic growth: A profile analysis approach to corroboration. Social Psychological and Personality Science. doi: 10.1177/1948550615587986
この前の前(2015年3月8日)にレビューしたJayawickremeらの最新の論文.「PTGはパーソナリティの変化としてみるべきであり,横断的方法,つまり振り返り法による自己報告に頼らず,縦断的方法などを用いて,客観的にどう変わったかをみるべきだ」という主張の研究グループである.その彼らが,「自己報告によるPTGの正確さ(精密さ・信憑性)」というタイトルで論文を出版したのだから,俄然興味がわく.この論文で,彼らは,「PTGがもし客観的かつ本当の成長を測定しているのであれば,本人をよく知る友人や家族はその変化について気づいているはずである.したがって,両者の評定は高く相関するはずである.もしも相関しないのであればそれは,本人が変わったと思い込んでいるだけであって,妥当性に欠くだろう」という仮説を検証した.まあ一言で言えば,「裏を取る」感じの研究だ.いずれにしろ,この種類の研究はまだ数が少ないので,データとしては貴重だ.
Marshall et al. (2015)
Marshall, E. M., Frazier, P., Frankfurt, S., & Kuijer, R. G. (2015). Trajectories of posttraumatic growth and depreciation after two major earthquakes. Psychological Trauma: Theory, Research, Practice, and Policy, 7, 112-121. doi: 10.1037/tra0000005
PTGの研究で最も手に入りにくいデータのひとつは,出来事が起きる前のデータである.縦断研究を計画する際,初回にベースラインとして,その人の性格とか考え方とかのデータを取るとする.二回目のときに,「初回から今日までの間に自然災害や生死にかかわるような大変な出来事を経験しましたか」と問い,それに対して「はい」と回答した人のみ,初回のデータがベースラインになり得る.「いいえ」の場合にはこの二回目もベースラインのまま,三回目の調査を待つことになる.調査協力者の人に災難がふりかかるのを待つ研究デザインになる.しかも実際には,研究計画案を申請する際,それが縦断研究であることも,二回目(ないしは三回目)にどのような質問をするつもりでいるかということもすべて初回の同意書に含める必要があり,その点に対して初回に説明し,同意してもらわないことには調査を始めることすらできないため,こういった計画は倫理上とても難しい.そんななか,わりと奇跡的なデータを使った論文が発表された.ニュージーランドで2011年の2月に大きな地震があったが,その4ヶ月前(一回目),地震の3ヵ月後(二回目),そして地震の1年後(三回目)の合計三回からなる縦断調査である.ちなみに,この一回目のデータは奇しくも別の地震の一ヵ月後だったため,2度の地震を経験した人たちに3回からなる質問紙調査をお願いしたという貴重なデータとなっている. 続きを読む…
Jayawickreme & Blackie (2014)
Jayawickreme, E., Blackie, L. E. R. (2014). Posttraumatic growth as positive personality change: Evidence, controversies and future directions. European Journal of Personality, 28, 312-331. doi: 10.1002/per.1963 「European Journal of Personality」という人格心理学専門の学術雑誌で,昨年PTGの特集が組まれた.この号では,アメリカのウエストフォーレスト大学の二人の研究者がPTG研究について現在問題となっている点を指摘し,今後どのような研究が必要かについて提言を行っている.私なりに解釈すると,著者には二つ言いたいことがあるのだと思う.ひとつめ.PTGIという尺度を用いた横断的な研究手法が氾濫しているせいで,PTGの研究の発展が妨げられている.研究者はPTGIを使うのを今すぐやめるべきである.ふたつめ.人格心理学者がPTGにもっと関心を持つべきである.生涯発達の見方を持ち出すまでもなく,パーソナリティが変わり得るということは知られている.大変なストレスを引き起こすようなつらい出来事から人がどう変わるかというPTGにパーソナリティ心理学がこれまで蓄積してきた研究方法論や理論を導入することで,PTGの理解もより深まるだろうし,パーソナリティが発達・成長・変化するということに対する理解も深まるだろう. 続きを読む…
Heintzelman, Murdock, Krycak, & Seay (2014)
Heijtzelman, A., Murdock, N. L., Krycak, R. C., & Seay, L. (2014). Recovery from infidelity:Differentiation of self, trauma, forgiveness, and posttraumatic growth among couples in continuing relationships. Couple and Family Psychology: Research and Practice, 3, 13-29. doi: 10.1037/cfp0000016
最近,来年のサバティカルに合わせて新たに始めたいと思っている研究のことをよく考える.これまで依拠してきたTedeschi&CalhounのPTGモデルになるべく固執しないように,ブレインストーミングの方法として私が今やっているのは,文献をレビューしながらメモを取るという方法だ.レビューする文献は,これまでに全くと言っていいほど勉強してこなかった領域についての論文と,これまでに自分がやってきた領域の論文を交互に読むように心がけている.例えば,「PTG」関連の論文を読んだ次の日は「比較心理学」の論文を読む.で,また「PTG」関連の論文を読んで,次は「言語心理学」の論文を読む.昨日は「環境心理学」の論文を読んだ.なので今日は「PTG」関連.というわけで,今日読んだこの論文がとてもおもしろかったのでそれを以下にレビューしたい. 続きを読む…
Su & Chen (in press)
Su Yi-Jen, & Chen Sue-Huei. (in press). Emerging posttraumatic growth: A prospective study with pre- and posttrauma psychological predictors. Psychological Trauma: Theory, Research, Practice, and Policy. doi: 10.1037/tra0000008
PTGについての研究で縦断的なデータを扱ったものは多くない.PTG(心的外傷後成長)という概念の特徴から,どうしても研究は後手にまわりがちだ.とは言っても縦断研究が全くないわけではないので,そんな中から,冬休み中に共同研究者から紹介された論文をレビューしたい.これは台湾の研究者によるもので,まず810名の大学生からデータを取り,その2ヵ月後にも参加した592名の中から,この期間内にトラウマを経験した110人をデータ分析の対象としている.この研究のウリは,トラウマを経験する以前の個人特性がPTGに及ぼす影響を縦断で見ることができた点にある.いくつか主要な結果があるけれど,私が最も大切だと思う結果は,パーソナリティの神経症傾向がPTGを予測しなかったという点だ.この「神経症傾向とPTGの間に負の相関がない」という知見は,PTG研究一番最初のTedeschi & Calhoun (1996)でも既に見出されている.これは,PTGとレジリエンスの質的な違いを示す重要な証拠だと思う. 続きを読む…
PTG & Resilience
この冬休み,何かと「PTGとレジリエンス」に関して考えることが多かったので,2015年はこの話題からスタートしたい.両者の関係に関して,数年前のTEDトークを思い出したので,久しぶりにまた見てみた.それは,ジェイン・マックゴニガルという女性によるトークで,2012年にこのトークがオンエアされた直後は,「TEDトークの中にPTGが出てたよ」と同僚や友達からメールをもらったことを覚えている.ちょうど2012年の夏,私たちの研究グループはフロリダのオーランドでAPA(アメリカ心理学会)に出ていたので,そこに来ていた他のPTG研究者たちとも,「あれ見た?」と話しては,彼女のトークの内容についてあれやこれやと話し合ったものである.トークのタイトルは「ゲームで10年長生きしましょう」というもので,PTGは11分くらいのところに出てくる. 続きを読む…
Westphal & Bonanno (2007)
Westphal, M., Bonanno, G. A. (2007). Posttraumatic growth and resilience to trauma: Different sides of the same coin or different coins? Applied Psychology: An International Review, 56, 417-427. doi: 10.1111/j.1464-0597.2007.00298.x
PTG理論モデルでは,起きた出来事によって自分がこれまでに信じてきたことや価値観が「認知的に」どう揺さぶられ,「認知面で」そのことをどのように考え,打ち砕かれた信念をどのように「認知的に」再構築するかという一連の流れが,一つの主な道筋として示されている.これがPTG理論の弱点でもある.つまり,認知面に重点が置かれすぎていて,結局はとらえ方次第ということなのかという疑問が出てくるからである.これに異議を唱えているのが,Hobfollらである.彼らは行動を伴った上での成長の実感なら本物だと認めるけれど,行動が伴っておらず,認知面で成長を実感しているだけならばそれは思い込みに過ぎないと主張している.その議論に対してさらに反対意見を唱えているのがこの論文である. 続きを読む…
Tedeschi, Calhoun, & Cann (2007)
Tedeschi, R. G., Calhoun, L. G., & Cann. A. (2007). Evaluating resource gain: Understanding and misunderstanding posttraumatic growth. Applied Psychology: An International Review, 56, 396-406. doi: 10.1111/j.1464-0597.2007.00299.x
この秋,11月に神戸で開かれる日本教育心理学会において,「大災害に対して心理学はこれまで何をしてきたのか?これから何をすべきなのか?」というシンポジウムが開かれる.私も演者の一人としてそこに参加し,PTGの観点から話をする予定になっている.日本教育心理学会への参加は渡米前,まだ名古屋大学の院生だった頃の2003年が最後なので,11年ぶりとなる.それで,自分はそこでなにを一番話したいか…ということを時々考える.そのヒントになるかなと思ったので,Richらが書いた2007年の論文を読み返してみた.この論文は,PTGによくある誤解を解くため,Hobfollらの論文にコメントする形式で書かれている.これを読むと,Tedeschi&Calhounの立ち位置はよくわかる. 続きを読む…